猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「出来たか?」

蓮の声を聞いて一花は顔を見られない様にルームランプで隠した。

「どうした?」

声を出したら涙が溢れそうで首を振る。

「すまなかった、タバコを吸いたかっただけだ」

蓮はルームランプを握りしめている手を優しく外して元の場所に置いた。

「一人で怖かったな」

よしよしと頭を撫でられて抱き寄せられると、肌触りのいい薄茶色のコートから墓地では気づかなかった強いタバコの香りがした。

普段は苦手なのに、今はその匂いにホッとする。

こんな風に誰かに抱きしめられて安心したのはいつぶりだろう。
きっとこの危機的な状況がそうさせているんだと、
だからなんだと一花は自分に言い聞かせた。

「ここは安全だったはずなのに……」

一花が涙声でそう言うと、ぎゅっと腕に力が込められた。

「一人になって怖かったです」

顔を埋めたまま言うと『ごめん』って頭のてっぺんに彼の唇が押し当てられた。

「何を持って行けばいいんですか?」

彼の腕の中にいる安心して素直になれた。

「大事なものだけでいい」

蓮は一花を離すと、コートのポケットからタバコを出した。

「そこで吸ってもいいか?」

彼がベランダに出ようとする。

少し彼が離れただけなのにまた一花の胸に不安が押し寄せてきた。

ダメよ、こんな弱気じゃダメ!
一花は自分を奮い立たせた。

うなずこうとすると、彼が静かに笑ってタバコをポケットにしまった。

「鞄を出しておいで。一緒に大事なものを入れよう」

ほっとして一花は言われた通りに旅行鞄を取りに行く。

簡単に二、三日分の着替えと貴重品を詰めていると、彼がドレッサーの猫達を面白そうに眺めていた。

「こいつは連れていこう」

一番お気に入りの瞳にエメラルドの入った白い磁器の猫を彼が持ち上げた。

「ええ、そのコは一番お気に入りなんです」

一花は猫を受け取った。


これからどうなるの?
本当に彼の言うように運命に動かされているの?

家を出る前にもう一度部屋を見渡した時、
一花はもうここには住めないかも知れないと感じていた。



< 42 / 159 >

この作品をシェア

pagetop