猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

向き合う覚悟


彼女の部屋を出て、蓮は車の中でメールに関してのこれまでの状況を改めて聞いた。

話を聞くうち、何の対策もしていないに等しい彼女に、そして彼女の周りの人間に腹が立った。

鍵を付け替えた事に何の安心感を得たつもりだ?
そんなものは簡単に破られる。

警察に届けたからといって安心するなんて、モデル事務所はおめでたい人間の集まりか!

こうなる事は最初にわかっていたはずだ。
しかも、エスカレートしているじゃないか。

「陽人は何もしてくれなかったのか?」

「陽人にはこの件は話していません」

「何故だ?あいつを信頼してない?」

「まさか!陽人はとっても頼りになります。 でも迷惑をかけたら悪いし……」

「迷惑?そういう事をいう奴じゃないとわかっているだろう?」

「わかっているから、です。研究の邪魔をしたらいけないし、それに陽人に言うと兄に知られて家族に心配をかけることになるから」

「家族にも話してないのか?!」

「両親も兄も医者なんです、只でさえ忙しいのに迷惑をかけたくないから」

もし美桜がそんなことを言っていたら、『馬鹿なことを言うな!』と怒鳴り付けてやるが、そうできない家族なのだろうか?

「何かあってから知った方が辛いと思うが、まあいいだろう」

今回は家族や陽人へのその変な遠慮のお陰で彼女を護る役目が俺に回ってきたのだから。

そう結論付けて蓮は無理矢理 自分を納得させた。

運命なんて言ってはいるものの、本当のところはその言葉で彼女との繋がりを保ちたいだけなのかも知れない。

これまでもモデルや彼女より華やかな女性は何人も相手にしてきたが、こんなに欲しいと思うのも、それ以上に護ってやりたいと思うのも初めての事。

心の瞳で人を見るという彼女に興味どころか、
すっかり深入りしてしまった。

「楽しそうですね」

「は?」

彼女に指摘されるまで蓮は自分が笑っているとは思わなかった。その事が可笑しくて、今度は声を出して笑ってしまった。

「気楽で羨ましいです」

「すまない」

蓮は彼女の膝を優しく叩いてからギアをチェンジしハンドルを切ると、駐車場に車を止めた。

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