猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「さあ、着いた」
「ここですか?」
蓮は先に降りると助手席のドアを開け、躊躇う彼女の手を取った。
「行こう」
とりあえず食事をしようと連れて来たのは、滅多に入らない安価でカジュアルなイタリア料理店。
こういう場所に来ると目立って鬱陶しい視線を感じながら食事する事になるだろうが、今はその方が危険が少ないから仕方がない。
「人気モデルさんを誘うには相応しくない店だったか?」
席についてからも落ち着かない様子の彼女につい笑ってしまう。
「まさか!蓮さんがこういうお店を知ってる事にちょっとびっくりしてしまって」
「こういう所は苦手だった?」
「そうではなくて……」
彼女の言いたいことはわかったが、いつまでも不安そうな顔はさせておけない。
それに、ようやく実現できた食事の機会なのに、彼女を怯えさせる奴なんかに邪魔はさせない。
蓮はそうではないとわかった上で彼女を焚き付ける。
「なるほど。もっと高そうな店に行くと期待させていたかい?」
「そんなことありません。もちろん服が欲しい訳でもないですから」
一花の眉間に皺が寄った。
「何なら先日のお詫びに、この後行きたい店に寄って欲しいものを買ってもいいが?」
「私の言うこと聞いてますか?」
彼女が思ったとおりの反応をするから、蓮は緩みそうになる頬の内側を噛んで堪えた。
怒った彼女もやっぱり魅力的だ。
「または、今から君の気に入る店に変えようか?」
言いながら蓮の口の端はつい上がってしまった。
「変えてなくていいです」
「わかった、次回は必ず買い物に行ってから食事をしよう」
「もう!いい加減にして下さい!」
ついに一花が叫ぶと、一気に周囲の視線が二人に向けられた。
その中の数人が『あれ?モデルの一花じゃない?』とヒソヒソ話しだした。