猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「………わざとですね?」
小さくなって睨む彼女に蓮はにっこり微笑んだ。
「君は怒った顔も魅力的だからね」
「信じられない!」
「それで?どうするんだ?」
「このままこのお店で結構です」
「ぷっ、あはははっ」
真顔で答える彼女に、蓮は今度こそ店内に響くのも構わずに声を立てて笑った。
「今度はなんですか!」
「いや、俺はこの後どうするのかな?と思ったんだけど?」
「薄々そうかなとは思ってましたが」
「ん?」
「陽人と違って、意地悪ですね」
一花は頬を赤くしながら口をへの字にした。
「いや、そんな事はないはずだが、君は俺の思った通りで嬉しいよ」
「それって褒めてませんよね」
「そんなにツンケンしないでくれよ、運命の二人はもう少し打ち解けてもいいだろう?」
蓮は和解の印に彼女のほっそりした手の上に自分の手を重ねた。
「あの、お決まりですか?」
タイミングを見計らっていたようにウエイターが注文を取りにきた。
一花が慌てて手を引こうとすると、ぎゅっと掴まれてより親密に指を絡められる。
「ちょっ……」
彼はいったい何をしたいの?!
一花の心臓がドキドキとうるさい音をたて始めた。
「俺が決めていいかな?」
蓮が絡み合う手を持ち上げた。
一花が仕方なくうなずくと、彼は繋いだ手を少し自分の方に引き寄せて、それをウエイターに見せつけるようにした。
「蓮さんっ!」
「今日のお薦めのコースでいいよね」
「え……」
その瞬間、一花の胸に甘い痛みが走った。
まるで愛しくて仕方がないという顔をして彼に見つめられて、この場の空気が変わった。
「何か苦手なものがあるかい?」
一花は首を振って答えた。
だって、言葉が出てこない。
魅惑的な甘いバリトンの声と彼の手の感触だけが感覚を支配している。
飲み物がどうとかデザートがどうとか聞かれていたが、一花は無意識にうなずいていた。
「畏まりました」
ハッとして、アルバイトの学生だと思われる男の子を見ると、瞳のやり場に困りながら顔を赤くして戻って行くところだった。
「今のは何?」
「二人が付き合ってると思わせたつもりだったが?」
「えっ?そんな……私達付き合ってない…、あれ?それともそういう事になったの?」
「いや、正式にはまだだな」
「そうよね、だって彼は陽人のお兄さんだし私はそんなつもりではなかった……」
「ああ本当に…くくっ…君に夢中になりそうだよ」
何かが喉に詰まった様な笑い声を聞いて、一花はハッとして彼を見た。
「……私、口に出してました…?」
彼は今にも吹き出しそうに笑いをかみ殺している。
「独り言に勝手に参加しないでください」
一花は拗ねた顔で彼を睨んでから、うつむいて熱くなった頬を隠した。
「独り言とは気づかなかった」
絡めていた手がとんっと軽く上下した。