猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「で?この後はどうする?」
どうかもう赤くありませんようにと願いながら、一花は顔を上げた。
「とりあえず、どこかホテルに泊まります」
誰か友達の所へ行って万が一迷惑がかかったらと思うと、ホテルが安全とは言い切れないけれどそうするしかない。
短くため息をつく一花に蓮は苦笑う。
「行く宛てがないのなら家に来ればいい」
蓮は助けると決めた時からそのつもりだった。
セキュリティーに関して我が家は問題ないだろう。
美桜は嫁いでしまったし、陽人は昨日オーストラリアに行ってしまったが。
「えっ?!そんな…ご迷惑はかけられません」
「迷惑ではない」
「で、でも……蓮さんお一人ですよね?」
「ん?もしかして何か誤解していないか?」
「なっ、何も誤解なんてしてません!」
蓮は彼女も少しは自分を意識していると感じて嬉しくなった。
「心配ない、部屋は腐るほどある」
「でも……」
「おや?ずいぶんと期待されたもんだな」
「本当に!期待なんてしてません」
一花が繋がれたままだった手を振り解こうとすると、なだめるように彼の親指が動いた。
身体がビクッと反応すると、形のいい彼の唇が弧を描いた。
「なぁ、よく考えてみてくれ。もし俺がこんな状況で君を傷つけるような事をする人間に見えるのなら、ホテルでもどこでも行った方がいい。それが正しい」
「それは……」
「だがそうではないから、今こうして一緒にいるのだろう?」
「信用していない訳ではなくて」
むしろその逆なんだと一花は思っていた。
出会った時に感じた説明の出来ない気持ちや、抱きしめられた時に感じているものに戸惑っている
恋愛を拒否していたつもりはないけれど
今日までこれだと思える出会いがなかった……
ううん、本当は怖かった
また誰かを好きになって失うのは怖いから
えっ?
好き?
自分の気持ちが進む方向に驚いて、一花の思考がそこでストップした。
「運命には逆らわない方がいいぞ?」
【運命】彼の使ったその言葉が躊躇っていた背中を押した。こうなったら、その運命に身を任せて見るのもいいかも知れない。
一花はふぅーっとゆっくり息を吐いた。
「本当にいいんですか?」
絡められていた手に自分から力を込める。
「ああ」
握り返された手の強さに一花は覚悟を決めた
運命と向き合う覚悟を。