猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
麻生家
蓮の運転する車が高い門を抜けてゆっくりカーブした道を走ると、大きな洋館が見えてきた。
一花は暗がりに瞳を凝らした。
確かお屋敷の前には花壇があって、左奥にはお庭が広がっているはずだ。
「わーっ」
陽人から聞いて想像していたすごいお屋敷とはちょっと雰囲気が違っていた。
立派な事には代わりないけれど、車のライトが当たって見えた建物はフランス郊外のオーベルジュのような穏やかな雰囲気で、一花は窓の外を見て羨望のため息をついた。
「陽人に聞いたことがあったけれど、本当に素敵なお宅だっていま実感しました。きっとお庭も想像通り素敵なんでしょうね」
「それを聞いたら、勇蔵(ゆうぞう)さんはすぐに君を気に入るだろう」
ゆうぞうさん?
誰のことかしら?
彼が車を玄関前に横付けすると、高校生位の男の子がサッとどこからか出てきた。
「まったく……いつからいたんだ」
シートベルトを外して蓮が車を降りた。
「蓮さんっ!おかえり!!」
子犬のように彼にじゃれつこうとした男の子は、一花が助手席から降りるとハッと驚いて動きを止めた。
「……こんばんは」
小さく頭を下げられた。
見た目はやんちゃそうなのに礼儀正しいんだ。
「こんばんは」
一花が微笑むと男の子は、はにかんだ笑顔をした。
蓮さんと同じ位の背に金髪が似合ってる。アイドルみたいに切れ長の瞳がキリッとしたイケメンさんだ。
「なに照れてんだ星夏(せな)?」
「別に照れてないし」
蓮が含み笑いをしながらキーを投げると、男の子は少しふて腐れたような顔で受け取った。
どうやら男の子は、せな君って言うらしい。
蓮さんとは親戚かしら?
陽人からその名前は聞いたことなかったな。
「無茶するなよ」
「わかってます」
嬉々とした顔で車に乗り込んだせな君は、ぶぉんとアクセルを踏んであっという間に車をどこかへ走らせて行った。
「彼、免許持ってるんですか?」
「ひと月前に取ったばかりだ」
「ええ?!そんな子に貸して平気ですか?」
あの車は高そうなだけじゃなくて、何だかこだわったものに見えたけれど。
「あいつは五才の頃からカートに乗ってる正真正銘の車バカだから平気さ」
蓮は一花の旅行鞄を持つと彼女を扉へ促した。
「ようこそ、我が家へ」
「あ、はい……」
成り行きと勢いでここへ来た一花だったが、腰に置かれた手に急に彼を意識し出した。