猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「えっと、陽人はオーストリアですよね」
昨日、陽人から意味深なメールがきていた。
留守中の出来事は報告しろとか何とか……
「ああ」
「確か妹さんは一年前に嫁いで……」
自分に言い聞かせるように話す一花に蓮は忍び笑いする。
「心配しなくても、俺と二人きりじゃない。
世話をしてくれる人達がいるから安心して」
「そう、ですか」
それを聞いて一花は安心したと同時に感心もした。
メイドや使用人という言い方をしない事で、
彼がその人達を大切に思っている事がわかったから。
彼のような人は、命令する事に慣れていてそういう気づかいはしないのかと誤解していた。
「妹が嫁いでこの家もずいぶん静になった」
蓮はほんの僅かな時間、瞳を閉じた。
猪突猛進で喧しい美桜が嫁いで一年。
母親の代わりに口煩く世話をやく妹がいなくなったのをいいことに、陽人は気が向いた時にしかここへ戻らなくなり、実質毎日ここで暮らしているのは自分だけになった。
「今は一人で気儘だ」
こっちを見て微笑む彼の瞳が寂しそうで、一花の胸がチクッと痛んだ。
私が実家を出たのはもう10年くらい前。
忙しくて中々揃わない家族でも、いなくなればあんな風に思ってくれているのかな。
「さあ」
扉が開けられて中へ入ると、60代後半位の女性がにこにこしながら現れた。
「おかえりなさいませ」
「タキさん、休みの日なのにすまない」
あ、ほら。
やっぱり、ここにいる人達を彼は家族のように大事にしているんだわ。
「かまいませんよ、で?そちらのお嬢様?」
「ああ、一花さんだ。
しばらくここに住むからよろしく頼むよ」
「まぁまぁ」
「一花さん、彼女はタキさん。住み込みでこの家の事をしてくれている。何か困ったことがあったらタキさんに言うといい」
「よろしくお願いいたします」
深々とお辞儀をされて、一花も慌てて頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「今日の所は俺が案内するから。さあ、タキさんはもう休んで」
「畏まりました」
タキさんはまたにこにこしながら、奥へ戻っていった。