猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「蓮さんの今度のお休みはいつですかぁ?」
語尾の上がった甘ったるい声が蓮を現実に引き戻した。
「三条(さんじょう)さん」
「麻未(まみ)でいいですよっ」
「いや……あの、そろそろ……」
「えぇーお話するのも嫌なほど麻未が何か失礼な事言ってしまいましたぁ?」
「そういう訳ではありませんが……」
蓮が言葉を濁したまま黙ると、彼女はお構いなしにまた自分の事をしゃべり始めた。
「麻未は本当はモデルなんてやりたくなかったんですけどぉ、編集長がどうしてもっていうからぁ………」
そう言いながら腕に絡めようとしてきた彼女の手を避ける為に、蓮は側を通ったウエイターからグラスを取った。
チッという彼女の小さな舌打ちはしっかり聞こえた。
「蓮さんはどう思いますぅ?」
「はあ……」
会場に着くなり紹介されたこの女性、
三条麻未は蓮のタイプとはかけ離れている。
確かに見かけはかわいい
だがブランドのドレスを着て自分の力では買えないアクセサリーを身に着けている彼女に中身はない。
それに
この甘えた声にはうんざりだ。
何も独身主義だと言うつもりはないし、これでも立場は理解している。
ただこれまで相手にしてきた女性は皆外見や持っているもの、いわばステイタスを通してしか俺を見ていなかった。
彼女達の身につけているブランドのアクセサリーやバッグと同じようなものだ
その時を楽しむだけなら好都合だったから拒むことはしなかったが、それ以上関係を深めるならば中身を、本当の自分を見て欲しい
運命なんて言葉を使えば現実主義の弟に笑われるだろうが、自分の中身をみてくれるそんな女性がどこかにいるはずだと思いたい
東堂のおじ様には現実をわかってもらうしかない。
「あっ!佐伯社長!ちょっと失礼」
「えっ、蓮さん?!」
蓮はいい加減張り付けた笑みが強張ってきたので、知り合いを見つけたふりをしてその場から逃げ出した。