猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

安心感


一花を部屋へ案内したあと、蓮は一階の書斎へ戻った。

「誰か俺達をつけていたか?」

部屋に入ると庭へ続くウッドデッキから音もなく現れた男を振り返る。

「いいえ」

全身黒ずくめの男は静かに首を振った。

男の名はディークス。
外見はどうみても日本人で流暢な日本語を話すが、国籍は彼の父親のアメリカでもちろん英語が堪能だ。

「空振りか」

本当なら彼女が望んでいたであろう静かな場所で食事をしたかったのを、わざとあんな店に入ったのは彼がすべてを監視しているのを承知の上での行動だった。

普段は鬱陶しい護衛が役に立つと思ったんだが……

「怪しいものもなかったのか?」

大まかな事情は店を出る前にメールしたので、
自分が彼女を案内している間に確認しただろう。

「彼女の持ち物からは盗聴器の類いは見当たりません」

蓮は眉間に皺を寄せた。

「どういうことだと思う?」

「今のところは何とも」

「しばらくは様子を見るしかないか」

「そうですね」

ディークスは蓮が社長になったその日に鷹田から紹介されたSP

それ以前の彼は元アメリカ海軍の精鋭だったらしいが、戦地で怪我をしたのが災いしてリタイアを余儀なくされ、母親の国である日本へ来たところをどういう経緯が知らないが鷹田がスカウトし、麻生家の警護責任者にしたと聞いている。

年齢は俺より五つ上と言っているが、私生活については本人が語りたがらないのでほとんど知らない。

「本日は無難なハンドル裁きでしたね」

「ふんっ」

蓮はディークスをチラッと見て鼻で笑った。

休日の度、公道で交通規則ギリギリの静かなカーチェイスを繰り広げること十数回……今のところは元レーサーの面目は保てていると蓮は思っているのだが。

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