猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「明日からしばらく彼女の様子を見てくれ。何か危険があればすぐに知らせろ」
ディークスの口の端がほんの僅かだがピクリと動いた。
長い付き合いの者だけがわかるその微妙な変化を蓮の動体視力は見逃さなかった。
「なんだ?」
「いえ。珍しくご執心かと」
「はっ?!余計な事を言うなよ」
「いつだって私はなにも」
そう言うと来たとき同様ディークスは音もなく庭へ消えた。
「食えないやつめ……」
蓮は外に広がる暗闇に向かって毒ずいて、椅子にどかっと座った。
ふと携帯を見ると、鷹田から書類を見るよう念を押すメールがきていた。
「わかってるって」
独り言を言って鞄から明日必要な書類に瞳を通し終わると、今日を振り返る。
久しぶりの休日にこんな展開が待っていようとは……
車を走らせるついでに寄った両親の墓参りで、彼女に会うとは思いもしなかった。
しかも同じ屋根の下に住むことになるなど。
そう言えば彼女は誰の墓参りをしていたんだ?
身内でないことは確かだろう
それならばあんな顔をせずとも答えられたはずだ
彼女にとって忘れられない大事な人物か
蓮はポケットからタバコを一本取り出すと、
それでトントンと机を叩いた。
「俺は想い出に勝てるだろうか?」
美桜やタキさんから耳にタコができるほど止めるように説得されている内に、だいぶ本数が減ったがまだ完全に止めることは出来ないでいる。
蓮は吸おうか迷って箱に戻した。
きっと彼女も苦手だろう
椅子から立ち上がり、暗闇をふと見上げた先のバルコニーを見て、蓮は書斎から飛び出した。