猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「少し外の空気が吸いたかっただけです」
一花はベッドの端に座った。
「まだ怖いか?」
平気です、と強がろうとして止めた。
彼に嘘をついても無駄だ。
「少しだけ……」
「大丈夫、ここは安全だ」
「ええ、それはわかってます。でも、どうして家の中まで入れたのかを考えたら……」
蓮はゆっくり歩いて、彼女の隣に座った。
ストーカー
元の語源は〔忍び寄る〕そんな意味だったと思う。
歪んだ想いが徐々にエスカレートしていき
歯止めが効かなくなった時に狂気になる。
彼女のやつは今日一段階、狂気へステップアップした。
「鞄を無くしたことは?」
一花は首を振った。
「でも外での撮影中はマネージャーさんに預けたりするから、管理は甘いですね」
でも。
それならば何かが無くなったりしていてもおかしくないと思うのに、小さなストラップ一つにしても、最近失くしたものは何もない。
一花がそう言うと、彼はしばらく黙りこんだ。
鍵、どうやってコピーしたんだろう……
一花はうつむいて何気なくルームシューズを脱いだ自分の裸足の足を見下ろした。
お気に入りの色のペディキュアは人指し指が剥げかかっている。
今日塗り直そうと思っていたんだ!
彼に見られたくなくて、思わず指先を丸めて隠そうとした。
そこでハッと気づいた。
さっきシャワーを浴びた時にメイクを落としたから、
素っぴんだ!!
「ここで暮らすことは誰にも言わない方がいいだろう」
「え?!誰にも?!」
顔を隠そうと思うより先に彼を凝視してしまった。
あっ、
もういいわ!
彼には泣き顔も見られているんだから今更よ。