猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「そうだ、家族や友達、とにかく全員だ」
「事務所の社長にもですか?」
「ああ。君の口から、この家の事を言ったらダメだ」
一花の胸がなぜかモヤモヤした。
もちろん、麻生家で暮らしているなんて言ったらそれこそジェニーに彼との関係を問いつめられてここへ来たいって迫られるに決まってる。
この間のジェニーの情報から考えても、他のモデルからだって嫌がらせをされそうだから言うつもりはなかった。
だけど。
彼に断言されると何だか面白くない。
「蓮さんの彼女にご迷惑がかかるなら、明日には出ていきますから!」
頭が考えるより先に、まるで嫉妬しているような言葉が口から飛び出して、一花は慌てて否定した。
「べ、別にあなたに彼女がいようと、私には関係ないけどっ!」
「へえー」
蓮は両腕を身体の後ろにつき、ゆったりと構えた。
「そんな顔しないで下さい」
笑いそうになるのを彼女に見えないよう唇を結んで横を向く。
「私だって言いふらすつもりなんてなかったし、…その、彼女との邪魔はしないって意味で、そもそもここへ来いって言ったのは蓮さんだし、説明が必要なら…」
「あ~」
わざとらしく欠伸をして、蓮はごろんと横になった。
「今日は疲れたな……」
片腕で瞳を覆い寝たふりをした。
「えっ?ちょっと!私のベッドで寝ないで下さい!寝るなら自分のお部屋へ行ってください」
一花が腕を引っ張ろうとすると反対に手首を掴まれた。
「きゃっ」
蓮はぐいっと引き寄せて、倒れ込んできた彼女を抱き止める。
「離して」
「しぃーっ。何もしないから、落ち着け」
ポンポンと優しく背中を叩くうち、彼女は諦めたのか、大人しくなった。
「大家は信用出来るって言ったな?」
「はい」
「では仕事の都合でしばらく別の所で暮らすと話すんだ。誰か来て聞かれたら急ぎの用があれば携帯に連絡して欲しいと伝えてもらうんだ」
元警察官ならば色々と察してくれるだろう
「私、そんなに長くここには……」
「何を言うんだ?解決するまでここに居るに決まってるだろ」
「でも……」
「彼女はいないよ」
「えっ?」
「安心したか?」
「だから、別に私は……」
一花が頭を上げて抗議しようとすると、
くしゃっと髪に手が差し込まれて、彼の胸に戻された。
そのまま彼は髪を一房持ち上げてくるくると指に絡めて弄んでいる。