猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

約束?!


翌朝、瞳を覚ますと一花は一人だった。

「私、いつの間に?」

壁の時計を見ると8時を少し過ぎたところ。
確か昨夜は彼が……

ハッとしてシーツを捲ると、服は乱れていないし隣は冷たく人のいた温もりはない。

本当に何もしなかったんだ

ホッとするのと同時になぜか寂しい気持ちになったのを慌てて否定した。

あんな人は私のタイプじゃない!

強引な俺様で女はみんな自分を好きだと勘違いしてるナルシストで、私をからかってばかりいるし

でも使用人の人達を家族のように大事に思ってるし、
運命なんて言いながら私を本当に心配してくれている

キスを拒めないのも事実だし……

揺れ動く気持ちに朝からため息がこぼれた。


「一花さま、おはようございます」

控えめなノックの音がして慌てて居住まいを整えた。

「タキさんですか?」

「はい」

ベッドから降りてドアを開ける。

「おはようございます」

「申し訳ございません。
 起こしてしまいましたでしょうか?」

「いいえ!今、起きようとしたところです」

「本日のご予定と、お食事に関してのご希望をお伺いできますか?」

「ええっと…、今日はオーディションがあるので11時までにザ・ホテルトーキョーへ行きます」

「はい」

「それから食事は……」

居候の身で希望なんて図々しい事を言ったりできません、と言うより先にお腹がぐぅと鳴った。

「あっ」

「さあさあ、遠慮なさらずに」

タキさんが笑ってうなずいた。

一花は今日だけは、と図々しいのを承知で自分の希望を伝えることにした。

「すみません、ではお言葉に甘えて。
朝は果物とヨーグルトがあると嬉しいです。たくさんは食べられませんので量は控えめでお願いします」

「畏まりました、すぐにご用意します。こちらにお運びしますか?」

一花は飛んでもないと首を振った。

「30分後にダイニングへ行きます」

朝の日課のヨガを15分にして支度をすれば、何とかそれくらいで行ける。

彼はもう食事をしているのかしら?

「はい。ではお待ちしております」

「ありがとうございます……あのっ!」

歩き出したタキさんが『はい?』っと振り返った。



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