猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「彼は…あの、蓮さんは?」
「若様でしたら、もうお出掛けになられましたよ?」
「えっ?!」
若様って……ううん!そこじゃなくて!
驚く私に大きく同意してうなずいたタキさん。
「まったく毎日朝食もろくに召し上がらずに慌ただしくお出掛けになられて。お忙しいのは会社にとって悪いことではありませんが、あれじゃいつ倒れてもおかしくありませんよ」
「そうですか……」
そんなに忙しいのに、
私の事で煩わせてしまってよかったのかしら……
私の思いを読み取ったのかタキさんが励ますように腕を優しく叩いた。
「若様はご自分がしたいことをされているだけですよ」
「でも……」
「昨夜の様な楽しそうな若様のお顔を見たのは久しぶりでございます。ご迷惑でなければどうぞご遠慮はなさらないで下さい」
「そんな迷惑だなんて……」
「ではご自宅だと思ってお寛ぎ下さいね」
「ありがとうございます」
ー二時間後ー
一花は至福の笑みを浮かべながら駅のホームに立っていた。
運命の女神様はずいぶんと私に甘いらしい。
あんなにおいしいのにヘルシーなんて天国のようだわ。
脇田さんは私の希望を踏まえた見た目も綺麗なヨーグルトを用意してくれた。
その後車でオーディション会場まで車で送ると言うのを必死に辞退して、近くの駅までにしてもらうのには苦労したけれど。
タキさんをはじめ脇田さんや運転手の兵藤さん庭師の勇蔵さん、紹介された皆さんいい人達ばかりだった。
明日は必ず彼が出掛ける前に起きなくては。
何も言わずに仕事へ行ってしまうなんて、起こしてくれたらよかったのに。
別に彼を見送りたい訳ではないけど!
心の中で自分に言い訳をしていると、肩にかけた重い鞄の中からメッセージを知らせる音がして一花はビクッとした。
あれ?待って、この音はあのメールじゃない
こんな音の設定してない
え?なんで?
一花はホームに入ってきた電車に乗り込んで、深呼吸して鞄から携帯を出した。