猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
もう!いつの間に勝手に?!
恐る恐る開いたメッセージは登録した覚えのないはずの【蓮】となっている。
開けて読み出すと一行目で一花は赤面した。
『おはよう。何もしないうちに寝顔を見た女性は君が初めてだよ』
「なっ!」
思わず声が出て周りの視線を浴びてしまい、慌てて口を手で覆った。
『 食事は気に入ったようだな。それから忘れているのかも知れないが、君は危険に晒されているんだぞ!素直に車を使うんだ』
何なのよ!!
これじゃあストーカーと変わらないじゃない!
一花は今朝の行動が彼に筒抜けなことに腹が立って、怒りをそのまま返信に込めた。
『 まさかあなたが犯人だとは思わなかったわ。今日の予定はお知らせするまでもないですね』
1分もしない内に彼から返信がきた。
『 おもしろい冗談だ』
は?それだけ?
しばらく待ってもそれ以上は何もこない。
もう!何なのよ!
一花は時間を腕時計で確認して次の駅で降りると、これも知らない内に登録されていた【蓮】という番号に電話をかけた。
「俺は君を護ると約束しただろ?」
ワンコールで出た甘いバリトンに囁かれて、
一花は崩れるようにホームのベンチに腰かけた。
「私がかけるってわかってたんですか?!」
「いいや」
耳元でクスクス笑われ、失敗したと思った。
彼は容姿だけじゃなく、声まで魅力的なんだわ。
でもおかしいわね?昨日はこんなに甘く感じなかったのに……電話だから?
「私を監視してます?」
「タキさんが連絡をくれたんだよ。出掛けるなら必ずうちの車に乗せるよう念を押しておいたからな」
「ああ、それで……」
タキさんは最後まで渋い顔をしていた。
でもあんな仰々しい車に乗っているのを誰かに見られたら、何を言われるかわかったものじゃない。
特にジェニーには……
「メールはきたか?」
「いいえ、今日はまだ」
「きたら教えてくれ。一人で解決しようとするんじゃないぞ?」
「はい。あのっ、ありがとうございます」
「ん?何が?」
「ちゃんとお礼を言ってなかったから」
「そうか」
「それで……あの…、私にも何か蓮さんのお役に立てる事があれば……」
「頼み事ならもうしただろ?」
「え?頼み事って、何を?」
「まさか、昨夜の約束を忘れた訳ではないだろうな?」
「や、約束ですか?」
「ああ、あの三条物産のお嬢様の前では恋人を演じてくれると言っただろ?」
「嘘よ!!絶対に嘘です!って言うか、彼女あれで諦めたんじゃなかったの?!」
「ああ。そうじゃないって言ったら、君は確か……
そうだ!あの女は蛇のようだとか何とか言ってたな」
確かに彼女はずる賢くって執念深い蛇の様だと思っていたけど、それを口に出した事はないはず!
「まさか……本当に?」
「俺を彼女から護ってくれるよな」
「そ、そんな事……あのっ!」
「すまない、そろそろ仕事に戻らないと、秘書が今日中に帰してくれなくなる。オーディション頑張れよ」
「ちょっと待って!蓮さん!あっ……」
信じられない……
あの女の前で恋人の振りをするなんて絶対に無理!
って言うか絶対にイヤ!!
寝ぼけて飛んでもない約束をしてしまったわ
そこで一花は思いきり眉間にシワを寄せた。
本当にそんな約束をしたのかしら?