猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
人波を抜けて一番はずれにある、誰も寄り付きそうにない暗がりのテラスに入ると蓮は深く息をついた。
十年……
両親が事故で亡くなってもう十年が過ぎた。
まだ父が生きていたらどうしていただろう
今頃は二人でASO の今後について熱く論議していたかもしれない。
いや、車好きだった父ならあのままレースの世界で生きることを理解してくれたかも知れないな。
今も家の書斎には父の買い集めたレーシングカーのミニチュアコレクションが並んでいる 。
蓮の顔に自然と笑みが浮かび、心に小さな痛みが刺した。
失くしたもの……受け取れるはずだったものの大きさは計り知れない。
それでも俺には愛すべき弟と妹がいて、父が受け継ぎ大切にしてきた会社をこうして護る事が正しい道だったんだ。
ササッと木々を揺らす心地よい夜風が吹き前髪を揺らした。
闇夜に浮かぶ白い満月を見上げて、蓮は妹の幸せを思って微笑んだ。
おじ様の息子は意外とデキる。
奴に美桜を託したのは間違いじゃなかった。
全く違う畑で仕事をしていたくせに、一年であそこまでやるとは流石に東堂コーポレーションの口煩い役員達もぐうの音もでないだろう。
まあ、少し黙らせる位は義理の兄として当然のフォローだったが。
「あの……」
もう見つかってしまったのか!
静かなひとときを壊す女性の声に蓮は大袈裟にため息をついた。
「あなたは魅力的だと、お父様にはお伝えします」
このわかりやすい態度で彼女が怯むだろうと思い、蓮はあえて振り返ることなく告げた。
「えっ…」
「だから、今は一人にして欲しい」
怒りと疲れを隠そうともせず声に出した。