猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「あなたって、身の程知らずよねぇー」
物思いに耽っていたら、お馴染みの刺のある声が図上から突き刺さった。
「こんなところまで……」
仰ぎ見るとそこにいるのは案の定、天敵の麻未。
一花はあからさまにため息をついた。
彼女とは始めから反りが合わないのをスポンサーのお嬢様だからと無理矢理取り繕っているけれど、彼女は敵意をいつも剥き出しにしてくる。
ジェニーに言わせると同い年だからライバル視しているらしいが……本当にいい迷惑
「何の事か知らないけど、あなたにそんな事を言われる筋合いはないわ」
「麻未は親切で言ったつもりだったのにぃ」
語尾を上げて睫毛をバッサバッサする彼女の顔を見ると、一花は彼の言った言葉を思い出して吹き出しそうになった。
確かに、人工的な音がするわ。
「何を笑ってるの?」
「別に。あなたここで何をしてるの?」
「何って決まってるじゃない」
自信満々にポーズをとられて、一花は改めて彼女を見て驚いた。
麻未は10センチヒールの黒のパンプスに膝上のミニスカートを履いている。
「あなたもオーディション受けたの?!」
大抵のショーのオーディションは足見せが条件にあり、モデルは黒のパンプスと自分の足がきれいに見えるミニスカートやショートパンツでそれに臨む。
「当たり前でしょう?モデルならこのデザイナーは外せないもの」
はっ?!冗談はやめて。
「まさか合格してないわよね?」
「失礼ね、もちろん合格したわよ!」
「嘘っ……」
「これで麻未の実力がわかったかしら?」
これはたちの悪い冗談?
このところ悪い事続きで気が滅入ることばかりだけど、これは最悪な出来事に近い。
あれ?厄年?
お祓いとか必要なのかも。
一花は首を振ってブックを鞄にしまうと麻未を無視して歩き出した。
「ちょっと!待ちなさいよ!話はまだ終わってないのよ!!」
カツカツとヒールの音をたてて麻未が追いかけて来る。
「もう!いったい何の用?」
「誤魔化したつもりでしょうけど、麻未の瞳は節穴じゃないのよぉ!」
両手を腰に当てて仁王立ちする彼女はいつもとは違う怒りのオーラを発していた。
「なんのこと?」
「とぼけないでよ!白々しい、蓮さんとは本当はどういう関係なの?!」
「うっ……」
信じられない
本当に諦めてないんだわ
確かにあのパーティーで彼を見る彼女の瞳は誰の瞳から見ても明らかに本気だった。
……って言うか、あれが私だってバレてたんだ。