猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「何が恥ずかしがりやよ!ふざけないで!いくらで引き受けたの?それとも何か仕事でも貰ったの?」

「なんですって?!」

逃げようと思って出した一歩をターンして彼女の方に向き直る。

「ああ!あの車の広告はそういうことね」

「ふざけないでよ!」

あの企画のモデルに選ばれたのは、彼と出会うずっと前のオーディションなのよ!

「いい?蓮さんがあなたなんか本気で相手にするはずないでしょう?勘違いしないでぇ」

ふんっと鼻で笑われて、カチンときた。

あなたなんか?!なんか、ですって?!

普段から燻っていた怒りの炎がついに燃え上がった

これまでも自分の方が背が高いからって、私を馬鹿にするような事を言ったり、強引に服を交換させられても大人しくしていたけれど、もう限界よ!

彼を護るつもりはなかったけれど、寝ぼけていたとは言え約束は約束だ。

こうなったら戦ってやるわ!

一花は彼女には滅多に見せない微笑みを浮かべた。

「あら?彼はあなたから逃げる口実に私を使ったと思ったんじゃないの?」

麻未の顔が真っ赤になった。

「違うわよ!彼は誰が相手でもそうだって知らないの?彼は誰とも本気にはならない事で有名なのよ。
それにものすごく美人な妹さんを溺愛していて、彼女が気に入らなければすぐに別れるって」

嘘よ。

昨日かなりの時間一緒にいたけれど、
彼がシスコンだと感じる発言はなかったわよ

「妹さんは最近結婚されたじゃない」

「そうよ、彼は最後まで反対していたって」

そうなの?
だからあんな寂しそうな顔をしたの?

ううん、そんな感じじゃなかったわよ
彼は純粋に妹さんの結婚を喜んでいるように感じたわ

一花が腑に落ちない顔をすると、麻未はそれをショックを受けたと勘違いして憐れむような声で一花の腕を馴れ馴れしく擦った。

「可哀想に。なにも知らなかったのね」

「はあ?」

「いいわ、許してあげる。たまたまそこにいたあなたを選んだだけだったのよね」

ちょっと待って。

なんで私が許してもらわなくちゃならないのよ!

ううん、そもそも何?その上から目線!

「あの、一つ聞いてもいいかしら?」

一花が下手に出ると、麻未は優越感たっぷりの顔をした。

「いいわよ、なにかしら?」

「彼にあしらわれたのはあなたよね?」

麻未の顔が途端に鬼の形相になった。

「自分が遊ばれたからって、麻未を同じにしないでよ!」

「私は遊ばれてなんかないわ」

独り言をからかわれる事はあるけれど……

昨夜の彼の笑顔が浮かんで胸がきゅっとなった。

「話はそれだけだったら帰るから」

関係を否定しなかったんだから、これで約束を守った事になるわよね?

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