猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

今度こそ本当に帰ろうとすると、鞄の中で携帯が鳴った。

きた!!
この音はそうだ、あのメール。
背中を冷たいものが這い上がってくる。

「待ちなさいよ!!」

怒りの収まらない麻未が、立ち止まった一花の腕を掴んだ。

「やめて!!」

咄嗟に力一杯その手を振りほどいてしまった。

「きゃっ」

予想外の強さで振り払われ、麻未はその場に尻餅をついた。

「ちょっとぉ!何するのよぉ!」

「そっちが悪いでしょう!」

つかみかかる麻未に一花も負けじと応戦した。
恐怖を振り払う為に麻未に八つ当たりしている自覚はあった。

「麻未は本当の事を言っただけぇ!」

自分達では気づかなかったけれど、この時ロビーには遠巻きに二人を見る人だかりができていたようだ。

「何してるの!やめなさい!」

美樹さんが駆けてきて、私達の間に入ると引っ張るように外へ連れ出した。

「騒ぎを起こしたりして、どういうつもりなの?!
採用を取り消されたいわけ?」

「そんなつもりは……」
ロビーを見れば、まだ数人が私たちを見ていた。

「ごめんなさい」
一花は歯を食い縛った。

美樹さんは大きくため息をついてから、麻未の方へ向き直った。

「すみません、麻未さん」

「どうして美樹さんが謝るの!?」

「一花ちゃんは黙ってて!!」

振り返った美樹さんに睨まれた。

「麻未さん、理由はわかりませんが一花がした事は謝ります」

「ふんっ!その人凶暴よぉ」

「なっ!!」
美樹さんに再び睨まれて、一花は言葉を飲み込んだ。

「麻未さんもモデルとしてやっていかれるのでしたら気を付けて下さい。スキャンダルが命取りになる世界です。どうか今後はその事を念頭に置いて下さい」

「そんなことは、あなたに言われなくてもわかってるわよぉ!」

麻未は捨て台詞のように言って中へ戻って行った。


< 63 / 159 >

この作品をシェア

pagetop