猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

はあーっと
大きなため息がまた美樹さんの口から溢れた。

「一花ちゃん」

「わかってます」

確かに先に突き飛ばしたのは私だ。
理由は別の事だったけれど。

「あなたには10年のキャリアがあるのよ。それを簡単に壊されては困るわ」

「はい。ごめんなさい」

おっしゃる通り10年もこの仕事をやっていながら、公衆の面前で騒ぎを起こしたりして反省してます。

「何があったの?らしくないわね?」

心配そうな美樹さんに首を振ってみせる。

「いつもの言いがかりです」

「それにしてはずいぶん派手にやり合ったんじゃない?」

「まあ……でも大した事ではないんです、本当に」

「そう?」

「はい」

ふぅーっと息を吐き出して美樹さんが肩の力を抜いた。

「わかったわ、今後は気をつけてね。ところで、
一花ちゃん?昨日はどこに泊まったのかしら?」

えっ?!
なぜ美樹さんがその事を?!

「ど、どうしてですか?」

「やだ、そんなに慌ててなんか怪しいわね?
近くに用事があったからお家に寄ってみたんだけど、
留守だったから聞いただけよ」

ああ、なんだ。
そういうことだったのか。

ごめんね、美樹さん
今は本当のことを言えないの

美樹さんにまで嘘をつくのは心苦しいけれど彼と約束したから。

「慌ててませんよ。何時頃かな?昨日は友人と食事をして遅くなったから」

「あら誰?ってごめん、私詮索してるわね」

「ううん。学生時代の子に偶然会って」

後ろめたさに身が縮こまる。

「あら、紫鳳学園の?」

「えっ?!」

さらりと言われたけれど、一花は内心ギクリとした。
私のプロフィールにはどこの学校出身かは書いてないはずなんだけど……

「あの……私、美樹さんに紫鳳学園だったって言ってましたか?」

「え?ええ、聞いたと思うし、ネットで調べれば出ていると思うわよ?ファンなら誰でも知ってる常識でしょう?」

「そっか」

常識なんだ。

単純に考えれば、同じ時期に通っていた誰かが私が一緒だったと何かのついでにSNSや友人との会話で話せばいいことなのよね

やっぱり……
世の中調べようと思えば簡単に情報が手に入る。

私だけが秘密だったと思っていたなんて馬鹿ね

ストーカーもそうやって色々私の情報を集めていたのかしら……



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