猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
蓮の過去
一花が打ち合わせを終えて事務所を出ると、外で意外な人物が待っていた。
「せな、くんよね?」
彼はうなずいて、昨夜と同じ礼儀正しい挨拶をした。
「こんにちは、一花さん」
「こんにちは。どうしてここに?」
「蓮さんに家まで送るように言われました」
鍵を見せて『こっちです』と親指で指すと、彼はスタスタ歩き出した。
「ま、待って!」
どうしてせなくんが?
一花が小走りで追い付くと、彼はすっと一歩前に離れた。
あれ?
いま避けられた?
近くのコインパーキングに着くまで彼はずっと一花と少し距離を取っていた。
「乗ってて下さい」
「ちょっと待って!」
シルバーの車のドアロックを解除して精算に向かう彼を、慌てて止めて財布を出した。
さすがに高校生に精算をさせる訳にはいかない。
「全部バイト代としてもらってます」
「そう言われても」
これは自分の為にさせていることだし、って言おうとすると彼が精算機へ走ったので、一花は走って追った。
「じゃあ、私からもバイト代を」
「そんなん困りますって!絶対に怒られるから!」
精算機の前で頑として譲らない彼に一花は仕方なく折れる事にした。
「わかったわ」
これは帰ったら蓮さんと話し合う必要がある
「こっちでお願いします」
車に戻り助手席に乗ろうとすると彼は気まずい顔をしながら後部座席のドアを開けた。
これは避けられてるとかじゃなくて……
「私の事が嫌い?」
挨拶を交わしただけの子にされる態度ではない
「すみません、取り合えず乗ってください」
ここで言い争うのは大人げないので、素直に後部座席に乗って、確かめるようにシートベルトを締めた。
「ちゃんと免許証持ってます」
バックミラー越しに渋い顔で言われて、一花はわざとらしく首をかしげた。
「そんなしっかり締めなくても、安全運転で行きますから……」
彼はしゅんとしっぽが垂れたワンコのような顔をしてから、滑らかな走り出しで車の流れに乗って運転技術を証明してみせた。
確かに免許を取ったばかりの高校生の運転とは思えないと思う。