猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「ジャパンカートレースは、少し昔に俺と同じ名前の世界的に有名だったF1レーサーが同じ大会で優勝したんです、俺と同じ歳に。だからちょっと話題の人なんですよね、俺」
「そのレーサーなら名前を聞いたことあるわ」
絶頂期にレース中の事故で亡くなった何とかの貴公子って言われていた外国人レーサーのことよね。
「同じ世界で同じ名前、凄いプレッシャーよね」
「それが……」
せなは赤信号で振り返って、一花に向かってうんざりした顔をしてみせた。
「え?なに?」
「俺の名前は、母さんが父さんの次に好きだと言ってる俳優が若い頃出演した映画の主人公の役名からとったんだって言うんだ。もうその時点で父さんよりそいつのが好きだと俺は思うんだけど」
「あら」
「父さんは父さんで車好きだったから、レーサーにしようと思って有名なレーサーからとったって、母さんに対抗してか、絶対に違うのに意地になって言うし」
「中々なご両親ね」
「結局のところ、二人とも【せな】が良かったってことでしょ、だから名前の事を言われても両親のアホらしい喧嘩を思い出すからプレッシャーは感じないんだ、どっちでも俺は俺だし」
せなは前を向いて肩をすくめた。
「それに、漢字は蓮さんがつけてくれたから気に入ってるんだ!」
「そうなの?せなってどんな字?」
彼がつけたって、どういう関係なのかしら?
「星の夏でせな。俺が生まれた年の夏に初めて蓮さんは国内カートで優勝して、その日の夜はすげー星がきれいだったんだって」
「素敵ね」
待って、国内カートって言った?
「彼はレーサーだったの?!」
「そうだよ。まさか知らなかったの?」
知らなかっ……あっ!思い出した!
昔、兄が話していたわ!
陽人の兄貴のレースを観戦に行くとか。
そうよ、モデルを始めたばかりの頃に陽人からレースを観に行こうって誘われた事もあった。
正直、興味がないのでまったく抜けていたわ。
一花の中で蓮さんとその頃聞いていた陽人のお兄さんがいま繋がった。