猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
彼女が怒っている原因はそれだったのか!
今朝の話は半分は嘘だった。
名前の話の途中で眠ってしまった一花に、三条のお嬢様の話などしていない。
たまたま今朝早くに東堂のおじ様から『見合いは上手くいっているようだな』と電話が来て、あのお嬢様は思ったりより狡猾でしたたかだと知った。
簡単に諦めさせるどころか、こっちが彼女の蟻地獄にはまってしまった。
そこで、都合よく言われた彼女の申し出にちょっとした嘘を付け加えて頼んでみたが……
「彼女と会ったんだな」
「会いました!彼女、この間のパーティーの相手が私だってわかっていたんですよ!」
「なにっ」
まさか、そこまでとは!
「それで?」
「私はあなたにお金で買われて偽の恋人を演じたとなじられたんです!だから『何も貰ってない』って否定したら、今度は遊ばれて捨てられる可哀想な女だって憐れまれたの!」
一花は一気に捲し立てた。
「わかった、彼女には明日はっきり言おう」
蓮の顔に浮かんだあからさまな麻未への嫌悪を見て、
一花の胸はすっとした。
「それには及びません」
「ん?」
「本当に頭にきたから、優越感たっぷりの顔をして
『あしらわれたのはあなたの方よね?』って言ってやりました」
あの時の麻未の顔を思い出して笑って彼を見た途端に、一花の心臓が大きく跳ねた。
「な、なんですか?」
よく言ったと褒め称えんばかりの嬉しそうな笑顔で伸びてきた手が頭をよしよしと撫でた。
「見たかったな」
蓮の纏う空気が甘いものに変わっている。
彼の右手の親指に頬骨を撫でられ、もう片方の手で腰を引き寄せられる。
「なにをです?」
「俺を自分のものだと言った時の君の顔を」
こめかみにさっと口づけられた。
「違います。ふり、ふりをしただけですから!」
心臓が早鐘のように胸を打つ。
「本当に?」
「彼女から護るって約束をしたから……」
「俺を護ってくれたんだ」
「そうじゃないわ、ううん…違う、そうよ、あれ?」
クスッと笑った彼に間近で見つめられる。
「ありがとう」
「私は……別に……」
ああもう!
この腕の中を拒めないのはどうして?
安心する彼の鼓動に耳を当てる。
「どうしてこうしていると落ち着くのかな?」
言ってからハッとして顔を上げる。
「いま口に出してました?」
わざとらしく真面目な顔を作って、蓮は首を振る。
「独り言には参加しない約束を……ぷっ」
「もう!」
最後まで言えずに吹きだした彼の胸を一花は軽く叩いた。