猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「笑わないでください!」
蓮は胸を叩く手を掴んでソファーに座ると、彼女を膝の上に乗せた。
「や、降ろしてください」
返事の代わりに腰に両腕を回して動けないようにする。
こうしていて落ち着くのはなにも彼女だけじゃない。
怒ったり笑ったり、表情がくるくる変わる彼女を見ているだけで、疲れが吹き飛び寛いだ気持ちになれる。
「オーディションはどうだった?」
「受かりました」
膝から降りるのを諦めた一花は恥ずかしさから横を向いた。
「ならば、あの服はお祝いだと思ってくれればいい」
「そんな、困ります」
「わかったよ、では今さら返品はできないから、明日タキさんに言って処分してもらおう」
「ええ?!」
それが蓮の意図とは気づかずに、一花は驚いてひどく落胆した。
「ん?」
「処分は……その…勿体無いです……」
曲がりなりにもモデルの私に、袖を通してもいない服を処分するなんて言わないで欲しい
一花はクローゼットを思い出して、小さくため息をついた。
あの異素材の切り替えが素敵なグリーンのワンピースとか、誘惑に負けて袖を通してしまったカシミヤのジャケットを処分するなんて……
「そうだ、妹さんに差し上げたらいいですよ」
言葉とは裏腹に残念そうな顔の一花に笑いそうになるのを堪えて、蓮は追い討ちをかけた。
「美桜には似合わないだろう?君に似合うものを揃えさせたんだから。それに美桜に贈ったとしても絢士に突き返されるのが落ちだ」
「あやと?」
「美桜の夫だよ」
「妹さんの旦那様が嫌いですか?」
「ああ、嫌いだね」
キッパリした言い方をされて、麻未の言ったことが本当なんだと悲しくなった。
「やっぱり結婚に反対だったのですね」
「やっぱり?」
『なぜ?』と言いながら蓮はうつむいた彼女の顔を上げさせた。
「妹さんの旦那様が嫌いなんですよね?」
「それは言葉のあやというか、兄としてなら当然の言葉だろ?」
一花が『おや?』っと見ると、彼は少しふてくされた顔をしている。
兄として?私の兄でもそう思うのかな?
「ごめんなさい、よくわからないです。
そのあやとさんの事は嫌いなのに、結婚に賛成したのは何故ですか?」
「わざとだな?」
むにっと軽く頬を摘ままれた。
「にゃにがれすか?」
摘ままれたまま首をかしげると、嫌そうな顔を返される。
「絢士を気に入ってると言わせたいんだろ?」
一花が瞳を大きくすると、フッと笑って摘まんだ頬を撫でられた。
「気に入ってる?!」
蓮は渋々うなずいた。
「あれは妹を任せるのに相応しい男だ。それをあいつの前で口にするつもりは絶対にないけどな」
それじゃあ、
やっぱり麻未の言ったことは嘘だったのね!
「ご結婚に最後まで反対したって聞いたけれど、それは嘘ですね?」
「誰がそんなことを?」
一花は今日麻未が自信満々に言っていた事を話した。