猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「えっ?蓮さん?」
彼の動きがピタッと止まった。
沈黙が怖くて一花は必死で言葉を探す。
「あの……」
蓮はおもむろに起き上がると、一度大きく息を吐き出した。
「えっ……」
外した時と同様、器用に一花のブラウスのボタンを留めだした。
「すまない」
ここで止められるなんて、自分でも信じられないが。
心の中でそう前置きしながら、彼女の瞳を見た。
「焦らずゆっくりいこう」
一花はホッとしたのと同時に何故か悔しくなった。
「五年なんて言ったから重くなりました?
私、そうなったからって急に彼女面したり結婚を迫ったりしないから安心してください」
「それは残念だ」
その言葉を本心から思っている自分に蓮は驚いた。
確かに彼女にはこれまでの誰とも違うものを感じているし、気軽に付き合う相手ではないのはわかっている。
だが、そうだからと言って束縛されることを好ましいと思うなんて、俺はどうかしてしまったのか?!
「蓮さん?」
「くそっ」
不安げな瞳を見下ろして毒ずいた。
五年……どんなやつだ!
彼女が簡単に次に進めないほど想っていたのは!
蓮は再び彼女の唇を捕らえ、押さえ込んだ感情もろとも唇に注いだ。
しがみついてくる彼女の手に嘘はないとわかる。
「私………」
好きな人を想うだけで溢れてくる苦しいけれど幸せな気持ちが、枯れていた心の泉に溢れだして一花の瞳からこぼれ出した。