猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
涙にぎょっとした蓮は彼女を起こすと、あやすように背中を擦った。
「すまない、強引過ぎた」
一花は大きく首を振った。
「ううん、悲しいんじゃないです」
収まりのきかない感情がもどかしくて、それなのに涙があふれ出すのを上手く止められない。
「わかってる、だからもう泣かないでくれ」
彼は困った顔で濡れた頬を優しく拭ってくれる。
「私……蓮さんが好きです、だから……」
一花の言葉の先を引き取るように蓮は彼女を強く抱きしめた。
「大事にしたいんだ、ゆっくりいこう」
耳元で囁かれた言葉に一花の全身の力が抜けた。
しばらくそのままでいたら、突然くくっと蓮が笑って一花を見た。
「これで」
そういう彼の瞳がいたずらに輝いた。
「これで?」
一花が警戒するようにおうむ返しすると、彼は更に笑みを深くする。
「あのお嬢様の前でフリをする必要はなくなったな。
はっきり言うんだぞ、私が彼女だって」
「なっ!麻未に宣言はしません」
一花の口がへのじに曲がった。
「そんなわざわざ恋人宣言なんかして、麻未のせいで更に敵を増やしたりしたくないわ」
ぷりぷりし出した彼女に蓮はわざと横を向いた。
「自分がどれだけモテるのか知って…、ううん自覚してますよね?どこに行っても目立つもの……麻未だけじゃないはず……そうでしょ?」
返事がないので顔を上げると彼はにやにやしている。
「聞いてますか?!」
「なんだ、独り言じゃなかったのか」
わざとらしく言って彼は笑いをこらえている。
「もう!!やっぱり嫌いです!蓮さん意地悪だし、
……きゃっ!」
怒って立ち上がろうとすると『ごめん、ごめん』とまた彼の膝の上に戻された。
「俺の事は君が独占してくれ」
そう言って髪を一房持ち上げる彼を見て、一花はこれからこの甘さに耐えていく自信がなくなった。
「ずるい……」
一花は短く息をついた。
運命はとんでもない人を私に連れてきたわ