猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「そういえば、例のメールは来なかったのか?」
「…来ました」
「なぜ直ぐに言わなかったんだ!」
『ん!』と蓮が片手を差し出してテーブルの上にある携帯を取るよう顎を動かした。
もう片方の腕はしっかり一花の腰に回している。
「なっ…」
まったく、こういう俺様な所は少しも私の好きなタイプじゃないんだから!
一花は口から出ないように慎重に内心で悪態をつきながら、彼の膝から降りることなく手を伸ばして携帯を取った。
「どうして笑っているんです?」
メールの画面を開いて渡そうとすると、彼が笑いをかみ殺している。
「わかりやすくて助かるなと思って」
「今のは口に出してなかったはず……あっ」
何を思っていたのかはすっかりバレていたって事だ。
「ああ、何も言ってないよ」
蓮は愛しさを押さえきれずまた唇を重ねると、気のすむまでキスをして余韻でボーっとする彼女の手から携帯を取った。
「これだけか?」
内容を見て蓮は顔をしかめた。
服装を誉め、オーディションについての事だけだ。
昨日のことはどうした?
今日、星夏に送らせたのを見ていなかったのか?
「はい」
一花は同じことを思ったと頷くと、彼の眉間にシワがよった。
「他に何か気づいたことはないか?」
「特には……あ!あの、これはメールとは直接関係なくて、大した事ではないと思うんですが……」
「些細な事でもかまわない。気になることは何でも話してくれ」
「世の中調べればわからない事はないんだなって……今日実感した事があって」
「それはどういう?」
一花は美樹さんとの会話で自分の素性が知られていたことを話した。
「秘密だと思っていたのは私だけみたいです」
「まあ出身校は仕方ないな。隠しきれるものではないだろう」
ただし、
そのマネージャーは調べる必要がありそうだ。
「そうですよね……」
「しばらくは、このまま様子をみよう」
蓮の頭の中にいくつかの考えが浮かんだ。
ディークスと話し合う必要があるな。
「さあ、夜更かしは終わりだ」
「きゃっ、ちょっと!!」
「しいっ、そこまでだから」
そう言って蓮は彼女を抱いたまま立ち上がるとリビングを出て階段の前でそっと下ろした。
「うちの大事なモデルさんはもう休まないと、撮影にクマを連れていく事になるぞ?」
言いながら携帯を渡して追いたてるように軽くお尻を叩いて階段を上がらせた。
「わかってます!」
一花は三段ほど上がって彼を振り返った。
「蓮さんはまだ寝ないの?」
蓮の眉が片方だけひょいっと上がった。
「毎晩添い寝をして欲しいのか?」
「なっ!違います!」
怒りながら階段をかけ上がった一花は上に着いてもう一度彼を振り返った。
「おやすみ」
そう言う階下の彼の甘い笑顔に赤い顔で捨て台詞をする。
「明日は一緒に朝食を食べます、おやすみなさい!」
一花の姿が完全に見えなくなると、
蓮は瞳を閉じてふうーっと、長い息を吐き出した。