猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
一花はニッコリ微笑んだ。
「どうして貴方が?」
わざと猫なで声を出す。
そうすれば彼が牙をむき出して振り返ることを承知の上で。
「わざわざ言わなくても、父は私を魅力的だと言ってくれると思いますよ」
案の定、彼はキッと眼光を鋭くして振り返った。
その顔に一花はハッと息を飲んだ。
信じられないほどハンサムなその顔は一度見たら誰だって忘れられないはず
漆黒の髪はきっと家系ね
すっと通った鼻筋に形のいい薄い唇、
あの唇が弧を描いたらどんな女性でもきっといちころだわ
人を寄せ付けない雰囲気が孤高で、かえって惹きつけられるという感じ
今宵誰もが身にまとっている礼服なのに、彼はひときわ魅力的に見える。
「どうして貴方をテレビや雑誌で見かけないのか、不思議だわ」
一花は思わずカメラマンのように手でファインダーを作って彼の顔を見た。
怒りを押さえつけて振り返った蓮は、
室内の明かりが照らす彼女を見て瞳を大きくした。
まるで光をまとっているように彼女は輝いて見えた。
薄いエメラルドのなんの飾りもないドレスを着ているが、シンプルが故に彼女の美しさを引き立てていた。
利発そうな顔立ちの半分を占めているのではないかと思う程の大きな瞳は、どこまでも引き込まれそうなほど深く魅力的で、ぷっくりと濡れたような唇は男なら一度は味合う価値がありそうだ。
すんなりと伸びている長い手足や細い身体
なるほど、彼女はモデルだな。
そして自分が勘違いしていた事に気づいた。
「すまない、別の女性と勘違いしたようだ」
蓮は素直に失礼な態度をとったことを詫びた。
「いいの、貴方がイライラしている理由は承知しているつもりです」
「ほう?」
「あら、彼女が気に入ったのならごめんなさい」
一花はさもそんなことはありえない、という風に片手をひらひらさせた。
蓮は小さく笑って首を振った。
この美女はどうやら彼女と知り合いらしい。
「君も彼女にイライラさせられた?」
「彼女にイライラしないのは心に瞳のない人か、とんでもない阿呆だけですよ」
ぐるっと瞳を回してみせる彼女に蓮は吹き出した。