猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

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キャンドルの明かりを灯した部屋で、男は一人喜びの奇声をあげた。

もうすぐ、あともう少しで彼女は僕のものになる

男は壁一面に貼られた数十枚の彼女の写真をうっとり眺めた。

あのブスがやりだした事に気づいた時は激しい怒りに駆られたが、ブスは悪い魔女だった。

それに気づいた時、男の頭の中で本が開いた。

ついに物語は始まったんだ。

今日の事は仕方ない。
気の強い僕のお姫様が怖がっているのをこのまま見過ごす事は出来なかった。
いざという時に僕が助ける事を知ってもらわないと。

間違いだっただろうか?

ふと、手にしたブラシを見下ろした。
その匂いを嗅ぐと、彼女の香りに体が反応する。

もう少しの辛抱だ。

その日が来ればこの手で髪をといてやる事も髪の匂いを直接嗅ぐ事もできる。

その時を想像し男は衝動を処理すると、ブラシを丁寧にビニールの袋にしまい、それを同じくビニール入りのハンカチや香水の瓶の入っている箪笥の引き出しにしまう。

頭の中で母の声がする。

ー『悪魔の力によって王妃さまに化けた魔女は、王様の愛する娘を苦しめました』

ー『お母さん、どうして魔女はお姫様を苦しめるの?』

ー『悪い魔女はね、王様の愛を一人占めしたかったの。それには忍耐が必要なのに、魔女はわかっていなかったのよ』

ー『にんたい?』

ー『辛抱強く待つことよ』

わかってるよ、お母さん。
今は耐える時なんだ。
僕は必ずお姫様を助けるからね。

助けた僕の腕の中でお姫様は微笑むんだ。
そして、瞳を見つめると僕を愛してるって気づく。

そうだよね?

僕達は永遠に幸せに暮らす。

その日がすぐそこまで来ている。


「僕のお姫様」

男は一番お気に入りの黒い服を着た彼女の写真に口づけてから、歯を磨き一日の感謝の祈りをして布団に入った。

枕元の擦りきれた童話の本を見る。

母の子守唄が聞こえて瞳を閉じた。


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