猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「お礼に今晩は外で食事をしよう」
「お礼なんていいです、お世話になっているのは私の方ですし……」
そう言ってから、野菜ジュースを一口飲んで一花は申し訳なさそうに切り出した。
「でも……」
「ん?」
「本当にお礼をしたいですか?」
何かを企んだ甘えるような顔に、蓮の顔が自然と綻ぶ。
「ああ、是非とも」
「ええっと。それならば毎朝何か作るので、お礼としてクローゼットのものを着てもいいですか?せっかく私の為に選んでもらったのだし……」
「なるほど。あの夜言っていた通り、確かに君は欲張りだな」
蓮が真面目な顔を作るのに苦労しているとは気づかず、彼女は慌てて否定しだした。
「違います!欲しいんじゃなくて、処分してしまうのは勿体ないから!だから……」
蓮からカタカタと鳴る音に気づいた一花は瞳を細めてそれを見た。
コーヒーカップを持つ彼の手が震えている。
「ぶっ、あははは」
案の定、蓮は腹を抱えて笑い出した。
「麻生蓮!!」
教師が子供を叱るような呼び方をされて、蓮は笑いを収める。
「ごめん、ごめん。服の事は昨夜君が着るって事で話がついたと思っていたよ」
「やっぱり結構です!タキさんに処分してもらえばいいわ」
「拗ねるなよ」
「拗ねてませんし、欲張りじゃありません」
一花はパンをちぎって頬張ることで、彼を無視した。
「一花」
甘い声に呼ばれて、うなじの辺りがゾクッとする。
「何着かは俺が選んだんだ。着たところを見せてくれないか?」
「本当に?!どれですか?」
ハッとして彼を見るけれど、微笑みを返されるだけだった。