猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「今日の予定は?」
「今日は横浜ベイサイドホテルで、来春のブライダルドレスのカタログ撮影があります」
「そうか」
彼はそう言うとコーヒーを飲み干し、渋い顔で空のカップを見たあと立ち上がった。
「蓮さん?」
一花の隣へ行き、テーブルの端に腰かけると見上げる彼女に屈んで口づけた。
「んっ…」
一花が素直に応じると口の中にコーヒーの香りが広がる。
蓮はこのまま永遠に続けられると思ったが、場所と時間を思い出して、仕方無く唇を離した。
「緑色のワンピースがあっただろ?」
「え?」
「ロビーで待ち合わせよう。時間は後でメールする」
『ごちそうさま』と頬に口づけて蓮は部屋を出て行った。
キスの余韻でぼうっとしていた一花は扉の閉まる音で我に返り、慌てて彼を追いかけた。
「蓮さん!」
車に乗り込もうとした蓮は顔だけ振り返って彼女を見た。
「いってらっしゃい」
「………ああ」
ドアをきつく掴んで何とかうなずくと、後部シートに乗り込んだ。
「可愛らしいお嬢様ですね」
車をスタートさせた運転手の一言で、蓮は堪えきれず大爆笑した。
「彼女は気づいたか?」
バックミラーを覗いた兵藤は『いいえ、まだ』と言って普段の真面目な顔を賢明に作ろうとした。
「……失敗。デカフェはダメみたい」
そう言う一花が片手にパンを握ったままだった事に気づいたのは、ダイニングに戻ってからだった。