猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

日常に潜む影①


ここベイサイドホテルは海を臨む開放的なチャペルが人気で、格式高いものから気軽なものまで多種に対応をする披露宴会場と衣装の豊富さから、ブライダル特集に常に取り上げられている。

今日は少し浜風が強いが、いいお天気の撮影日和だ。

「おはようございます」

一花がメイクルームに入ると、ヘアメイクの牧原さんことマッキーに髪をアップにしてもらっているジェニーが鏡越しに唇を尖らせた。

「先輩~」

「なに?朝からどうしたの?」

「もう聞いてください~本当にさいってー最悪です!
……って、あれ?!そのワンピ素敵ですね」

「えっ、そう?」

今朝、彼が言っていた緑色のワンピースがどれなのかは、クローゼットを開ける前からわかっていた。

細かいプリーツが胸元に施された細身で女性らしいラインをしなやかに見せてくれるレトロ風なデザインのもの。

緑は好きな色だから、真っ先にチェックしていた。

普段自分が選ぶ服より丈が短い気がするが、着てみたら切り返しの裾の広がりが足を綺麗に見せてくれているので、すごく気に入ってしまった。

「あれれ?それって【ル・ソレイユ】ですか?!」

【ル・ソレイユ】って、スーパーモデルの東堂ヒナタがプロデュースとデザインを始めたって話題の?!

「ジェニーどうしてわかるの?」

「昨日テレビのお仕事で取材したばかりで、その形のワンピは私も狙ってて、しかも……」

「ちょっと!ジェニー?!」

ジェニーは立ち上がって、一花の背中にあるタグを引っ張った。

「やっぱり。ブランドタグにクローバーの猫がいる。
彼女がデザインしたものだけに、これがついているんですよ」

なるほど、そうなのね。

タグに【ル・ソレイユ】ってあったけど猫がいたから、まさかね、って思ったのに。

「初めて見たーへぇー素敵ねぇー」

マッキーがドライヤーを持ったまましげしげと見る。

「よくお似合いです」

横に居たアシスタントの雅人(まさと)も笑顔で誉めた。

「あ、雅人君。今日はよろしくね」

マッキーの一番弟子である雅人は今日初めて一花の担当をすることになっている。

「はい!」

「知ってた?この子ったら一花ちゃんのメイクがしたい為にこの世界に入ったのよ」

「ちょっ、止めてください!う、嘘ですから」

狼狽える雅人の後ろから、ジェニーが疑わしげな顔で一花を覗き込んだ。

「これって発表されたばかりなはずなのに?
先輩早いですね、どうやって手に入れたんですか?」

「ええっと……」

あらら、まずい展開になってきた
どうして蓮さんが絡むとジェニーに見つかるのかしら

「頂いたの」

うん、嘘はついてない。

「誰にですか?」

当然そうくるよね。

「秘密」

「えーまさか、ついに新しい彼とか?」

「「えっ!!」」

マッキーと雅人くんが同時に私を見る。

「だから秘密!」

向けられた疑いの瞳にじっと耐えて口にチャックする真似をした。

< 85 / 159 >

この作品をシェア

pagetop