猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「先輩にもついにそんな人が……」

隣に座るとジェニーが鏡越しにキラキラした瞳を向けてくる。

「それよりも、何が最悪?」

話題を変える為に言ったのに、途端にジェニーの表情が一変した。

「またですよ、あの女」

「なにが?」

「強引に入り込んで私のと先輩の衣装を一着ずつ奪ったんですよ!」

「嘘よ!」

「先輩の白と私のブルーのドレス」

『ホントに?』とマッキーを見れば、鏡越しにぐるりと瞳を回された。

「どうして?!これは雑誌とは関係ないじゃない!」

「パパが衣装会社の大株主なんだって」

「そんな……」

「思うんですけど、最近あの女(ひと)勘違い激しくないですか?この間のあのショーだって絶対パパが絡んでいるに決まってるし」

「そうなの?」

「パパに頼めばパリコレだって出られちゃうんじゃないです?私もあのパパに頼もうかな」

ジェニーが笑うと同時にバンッと扉が開いて、話題の張本人が現れた。

たぶん外で聞いていたのだろう。
麻未は物凄く意地悪そうな顔でジェニーを見た。

「貧乏人のひがみってみっともないわねぇ」

麻未はジェニーが常日頃、玉の輿を狙っていることを承知している。

「何ですって?!」

「ちょっとテレビに出てるからって、勘違いしてるんじゃないのぉ?あなたなんてセレブでも何でもないのにぃ」

「はあ?」

「それとも血の繋がらないパパに頼んだからテレビに出てるのぉ?」

「いい加減なこと言わないで!」

立ち上がったジェニーの握り拳を見て一花は慌てて止めに入る。

「ちょっと言い過ぎじゃない?!」

「ああ、あなたの後輩ですものねぇ。セレブに言い寄るのは得意なはずだわぁ」

麻未はあからさまに蓮さんの事を言っている。

「やめてよ!」

「あら、やだぁ。あれだけ忠告してあげたのにまだ彼が本気だと思ってるのぉ?かわいそうな人ねぇ」

「一花先輩に向かってなにを言ってるのよ!」

「勘違いして可哀想だから教えてあげてるのよぉ」

「ちょっとー!二人とも止めなさいよ」

マッキーが危機を察知してジェニーと麻未の間に割って入った。

「勘違いしてるのはそっちでしょう!
麻未さんて、ちゃんと鏡を見たことあるの?」

ジェニーが言い放った瞬間、みんなの動きがピタリと止まった。
空耳だと思うけど一花には拍手する音が聞こえた。

「なんて失礼な!!」

麻未の金切り声で全員我に返った。

「失礼はそっちでしょう!」

マッキーに抑えられたジェニーは今にも麻未を引っ掻きそうだ。

「やめなさいって!!ほら、雅人!ボーッとしてないであんたは麻未さんの支度して!」

マッキーの怖い顔が顎で扉をさした。

雅人君の顔が驚き、ついで悔しそうに歪んだ。

「でも僕は今日一花さんの……」

「つべこべ言わないっ!早くしなさい!」

『ごめんね』と手を合わせる一花に雅人は軽く頷いて、わめく麻未を連れて別室へいった。

「悔しいーーー」

ジェニーが椅子に座ったまま地団駄を踏んでいる。

「あの女は無視するのが一番よ!みんな心の中で思っている事は一緒なんだから……ってついにこの子がそれを口にしちゃったわね」

マッキーが改めてその事実を口にすると、三人は怒りを忘れて同時に吹き出した。

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