猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「なに言ってんのよ」

「だって……」

「そんなモデルに、テレビの仕事なんてこないでしょうが!」

「あれは美樹さんが」

「そうよ、美樹ちゃんはあんたを売り込むの必死で頑張ってるのに、当の本人はテレビの世界には興味ないんだって?」

「うん」

「少し前から思ってたんだけど、あんたモデルいつまで続けたいの?」

「えっ」

「この際だから、はっきり言ってもいい?」

そう言いながら、てきぱきときれいに結い上げた髪にアレンジを加えてからマッキーはメイクに取りかかった。

「うん」

施されるアイメイクに瞳を閉じながら、一花は覚悟するように神妙な顔をした。

「あんたはさ、他の子に比べて情熱が足りないのよ。
やる気とは違うわよ、何て言うの?ジェニーみたいに服が好きで将来的な希望があるわけでもなければ、
あの女みたいにモデルよ!っていう奢りもない」

「奢りがいいわけ?!」

瞳を開けて鏡越しにマッキーに向かって眉間を寄せる。

「そうよ!あの女のがモデルのプライドがあるの!
ちょっと容姿がいいからモデルになったけど、自分からなりたかった訳じゃないから、いつでも辞められるって心のどこかで思ってるでしょ?」

あの女とはもちろん麻未のことを指していて、
悔しいけれどマッキーの言うことに反論する言葉が見つからない。

「いつでも、なんて簡単には思ってないよ」

「そろそろ人生の転機なんじゃないの?」

「え?」

「自分のやりたいことをするのよ、何かから逃げたり、誰かの為にするんじゃなくて」

「誰かの為にって」

「もう十分頑張ったと思うわよ」

マッキーの言う誰かはあの人の事で、五年前ボロボロになった私を支えてくれたマッキーは全てを承知していてそんな事を言うの?

「自分のやりたいことやっていいのよ、くどういちかになって考えてみたら?」

「マッキー……」

「よしっ!今日は終わったら久しぶりに飲みに行きましょう!」

「そうね、あっ!ダメだ」

今晩は蓮さんと食事が。

「は?」

「今日はこのあと予定が……」

語尾を濁しつつ瞳が泳いでしまう。
わかってる、
マッキーに隠し事なんて出来るはずがない。

「あんた!そろそろ私に話す頃じゃない?」

ほらね、怖い声。
口紅を引く手が止まって、荒い鼻息がかかる距離。

マッキーはお肌もきれいだし仕草も言葉遣いも女らしいけど、身体は神様に与えられたものを受け入れている。

ちょっと、牧原大悟さん
明らかに顔つきが別のものになってますよ。

「白状しなさい」

「な、なにを?」

一花はひきつりそうになる口を堪えてとぼけた。

「いい度胸じゃない」

口紅をひいて仕上がりを確かめ満足して頷くと、
マッキーはケープを外しながら、私を睨んだ。

「その服の贈り主についてとかよ」

「えーっとこれは……」

『俺の事は君が独占してくれ』急に昨夜の彼の甘い囁きを思い出して、一花の頬が熱くなった。

「ちょっとやだ!!本当に男からなの?!」

マッキーは隠し通せる相手ではないし、隠し事をしたい相手でもない。

一花は小さく頷いた。

「どこの誰?!」

「詳しいことはまた今度」

「はっ?!そんなのダメに決まってるで……」

「ごめん、私行かなくちゃ!」

マッキーが最後まで言い終わる前に一花は逃げるように部屋を飛び出した。

「ちょっと一花!」

廊下を走りながら一花は笑いが込み上げてきた。
こんな楽しい追及いつぶり?
私、本当にまた恋をしてるんだわ。


< 88 / 159 >

この作品をシェア

pagetop