猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「それで?」
「え?」
「俺に何の御用かな?」
「ああ……えっと、私いちかと言います。
それで……」
いざ切り出そうとすると、急に不躾な気がして一花は言い淀んでしまった。
蓮はニコッと笑って首をかしげた。
うわっ。
なにそれ。
ドキッとするその笑顔は一花を余計に怯ませた。
「いちかさん、こんなところでナンパ?」
「まっ、まさか!違います」
「それじゃあ何かな?」
見覚えのある面白がっている表情で、彼が私を見た。
それを見て確信した。
間違いないと思う。
「あの……陽人(はると)のお兄さんですよね?」
「どうしてそれを?」
予想もしなかった彼女の答えに蓮は驚いた。
陽人は間違いなく弟だ。
あの日……両親の事故の知らせを聞いても 取り乱すことなく静かに泣いていた5つ下の頭のいい弟。
「やっぱり!!陽人は兄の友人なんです!
彼の研究室でご家族の写真を見たことがあって、それで今日あなたを見かけた時にどこかで会ったような気がしていて」
「ふうーん、弟から君の事は聞いてないな」
まぁこれほどの美人なら、陽人が隠していたとしても仕方あるまい。
「どこが似ている?」
蓮がそう聞くのも無理はない。
生まれもった性格がつくる雰囲気のせいだろうか、感情を抑える事が得意ではない蓮と穏やかな性格の陽人は一見すると兄弟には見えないのだ。
それに……
蓮は自分がおしゃれだとは思っていないが、弟は興味どころか、おしゃれのおの字も気にしていない。
妹の美桜が鋏を持ち出して脅さなければ髪も切らないし、洋服はいつだってジーンズに依れたシャツ。
「言いたいことはわかります」
一花は陽人を思い出してクスッと笑った。
「きちんとすれば自分がどれだけ魅力的になるかなんて、陽人には関係ないんですよね」
「なるほど。君は弟をよくわかっているようだ」
「私は心に瞳(め)がありますから」
「ほう、君は心の瞳で俺を見て兄弟だとわかったと?」
「もちろん」
彼女の得意げな笑顔に蓮はつられて笑った。