猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
一花は彼の求めているものを探そうとその瞳を見つめるが、陰った瞳は困惑しているように見える。
「失礼します」
タイミングを見計らったように扉を叩く音がして、前菜が運ばれてきた。
見て見ない振りをする給仕の人に、一花は赤い顔で彼の腕から離れて席についた。
「美味しそう」
きれいに盛り付けられた野菜と魚のテリーヌを一口食べて唸った。
「うーん、美味しい」
彼女の至福の表情を見て、蓮も同じものを口に運んだ。
一花は内心でほっとした。
よかった、疲れていても食欲はあるみたい。
「今日の撮影は上手くいったようだな」
「はい。麻未とは揉めましたけど」
こんな場面で誰かの悪口なんて話題にしたくないけれど、他ならぬ麻未の悪行は喜んで報告しておく。
「はっ?!あのお嬢様は本当にモデルだったのか?」
蓮の心底驚いている顔を見て一花はにっこり笑った。
ジェニーやマッキーに彼の反応を教えてあげたい。
「違うって私も思いたいです」
「三条物産の社長は強引だと聞いたが、まさかビジネス以外のそんな事までとは」
一花はそこで麻未の話を終わりにした。
「メールはきたのか?って聞かないんですか?」
「そうだ、きたのか?」
「はい。いつもと同じで、モデル一花を誉めて応援している文章です」
「応援ではない、執着だ」
「……はい」
執着。
そうやって言葉にされるとやっぱり背筋が寒くなる。
どうして私なんだろう?
「訳がわからないです。だって、今日の撮影中だってそういう気味の悪い視線みたいなものは一切感じなかったし、何も失くなってない。私、あの部屋から引っ越せばいいだけなのかな」
現実的に考えてこのままずっと彼の家にいるわけにはいかないし、家賃だって勿体ない。
「馬鹿な、ダメに決まってるだろ!」
「でも、あのコたちを置きっぱなしにしてるのも気になるんです」
「あのコたちとは?」
「ドレッサーにいた猫たちです」
「一つ持ってきたじゃないか」
「そうですけど……」
モデルを始めた頃からか集めだした猫の置物は、雑誌でも紹介したことのある一花の趣味のコレクションだ。
持ってきたのは一番高かった瞳にエメラルドの入った白磁のコだけれど、安いからって他のコがどうでもいい訳ではない。
初めてのお給料で買ったガラス細工のもの
銀製品のコはあの人からもらったもの
気づけば撮影で出掛けた先ではいつも猫の置物を探していたし、自分へのご褒美や記念として大切にしてきたものだ。
それぞれが大切な思い出になっている。