猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
「住んでないのに家賃を払うの勿体ないし、遊びにきた友達にいつも留守では申し訳なくて……」
「わかった、ではあのマンションは引き払おう。
友達には彼氏の所にいると言えばいい」
何でもないことのように言って蓮はワインを口にした。
「えええ??」
「明日にでも手続きして、荷物は……」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
一花が動揺して立ち上がると、次のお料理が運ばれてきた。
「メインでございます」
仕方無く椅子に座り直して、肉料理の説明を聞きながら何とか動揺を静めようと努力した。
そんな、簡単に引き払えって……
「わかってますか?」
給仕の人が出ていってすぐ、一花は彼を見た。
「なにが?」
「手続きをしたら、私の住所はどこになるのか」
「普通は俺の家になるだろ」
「それって同……」
「居候だな」
彼は平然と言ってメインの肉を優雅に切り分け口に運んだ。
「へっ?居候?」
一花はびっくりして持ち上げたナイフを下ろした。
「い、居候って……そんな言い方、私達は付き合っているんだし、同棲じゃないの?」
「なるほど、同棲か」
「あっ」
また心の声を口にしてしまった。
見なくても彼が笑いを堪えているのがわかる。
「それならば寝室は俺の部屋に移さないといけないな。早速今夜にでも……」
「結構です!」
「遠慮するな」
「してません!私は今お借りしてる部屋で十分です」
「俺がそっちへ行けと?」
「蓮さん!」
一花はこれ以上からかうのを止めてもらう為に、忠告の眼差しと共に手にしたナイフを突き付ける。
案の定、彼は肩を揺らして笑いだした。
「悪い悪い。その顔が見たくてつい苛めたくなる。
今のままでいいから越しておいで」
「でも……」
好きだと告白したのは昨日のこと。
いくら久しぶりの恋愛だからと言っても、
この展開が早すぎるのはわかる。
「今は深く考えるな。ストーカーの問題が片付いたら家を探せばいいだろ」
「でも、それではいつまでお世話になるか」
「しばらくの間だよ。長くはかからない」
「本当に?」
「ああ、近いうちに必ず犯人を捕まえる」
どうやって?と聞くのはやめた。
彼がそう言うのだから、間違いない。
私はそれを信じればいい。
「じゃあ、家はそのままにしておきます」
「どうして?同棲で話はついただろ?」
「ついてません!電気やガスは止める手続きをするけど、大家さんに事情を話して家の契約はそのままにします」
「事情を話すって、そんなことをしたら」
「しばらくの間なんですよね?」
今度は一花が肉を優雅に口に運んでから、にっこり微笑んだ。
「わかったよ」
「でも猫たちは明日とってきます」
「いや、それならこのあと一緒に行こう」