猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
恐怖
お酒を飲んでしまったので、交通機関を利用しようとした一花を無視して彼はタクシーを拾い、猫のコレクションを取りに来た。
横浜から一花の家まで来たのに、そのタクシーをそのまま待たせる蓮に驚いて、一花はとにかく急いで猫たちを布袋に詰めて麻生邸へ戻ってきた。
「おかえりなさいませ」
玄関でニコニコの笑顔で出迎えてくれたタキさんは、私たちが一緒にいるのを見ると『おやすみなさいませ』と回れ右して自室へ戻ってしまった。
「着替えてゆっくりするといい」
「まだお仕事があるのですか?」
「ああ」
「……社長さんは大変ですね」
「一花」
クスッと笑って長い指に顎を持ち上げられた。
「な、なんですか?」
人差し指が頬を撫でる。
「心の声が聞こえないな?激しい運動はどうするの?
だろ?」
一花は赤い顔でその手をぞんざいに払った。
「思ってないことは言いません」
「デザート2つ平らげたのに?」
「それは!」
別の方法で消費するつもりだから……
「部屋で待っててくれ」
彼の唇は笑みを浮かべ、瞳が面白がっている。
このままではいられない!
初な小娘のように毎回狼狽えたりしないんだから!
「先に寝ますね。おやすみなさい」
一花はさっさと階段へ向かった。
ほら、私だって彼をあしらうことが出来るんだから。
「寝ぼけたままでいいのか?」
うっ。階段を上がる一花の顔に浮かんでいた笑みが吹き飛んだ。
いいわ、こうなったら、やられてばかりいる私じゃない所を見せてあげる。
一花は階段の上から彼を振り返った。
このポーズは今日カメラマンから一番褒められたものだ。
「そうね……」
誘いかけるようにゆったり微笑みかける。
「それであなたが満足できるのなら?」
蓮の身体をガツンと欲望が突き抜けた。
「くそっ、覚悟しておけよ」
一花は今度こそ笑い声をあげて、逃げるように階段を上がった。