猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
一花は部屋に戻ると、靴を脱ぎ捨て小花柄の二人掛けのカウチに寝そべった。
さっき自分の家に帰った時よりもここの方が落ち着くなんてどういうことかしら?
この暮らしに慣れるのは危険よね。
それにしても、
今日は良いことがいっぱいだった。
ふわふわした気分に足をバタバタさせる。
「何だか久しぶりにいい気分……ふふっ」
ちょっぴり酔ってるかな。
お酒も食事も美味しかったし、デザートのフォンダンショコラもチーズケーキも美味しかったな。
「あっ」
激しい運動のくだりを思い出してがばっと起き上がる。
さっきはしてやったりと思ったけれど……
「本当に来るつもりかしら?」
自分で口に出しておきながら、キャーッと赤くなる。
「馬鹿みたいだわ私、ね?」
視界に入った白磁の猫に苦笑いした。
実家にいる時もこんな風に絵の猫に話しかけるのが習慣になっていた。
あのコには子供の頃から一人でいる時にたくさんの悩みを打ち明けていた。その様子を見た両親がリビングから外して初花の部屋に飾ってくれたんだ。
「そうだ、仲間を連れてきたわよ」
一花は紙袋からコレクションを入れた布袋を出した。
丁寧に包んできた三つ。
シルバーのペイパーウエイトはあの人から貰ったもの。
スワロフスキーの美人さんは吉濱社長が二十歳のお祝いに買ってくれたもの。
キラキラ緑のラインストーンでデコってある愛嬌のあるコはマッキーが手作りしてくれたもの。
白磁の猫と並べて微笑む。
いつかあの絵と同じのをオーダーで作りたいな。
瞳はエメラルドとトパーズにすると高くなるかな…
あれ?そう言えば絵の猫と東堂ヒナタのデザインの猫は似てるかも?
一花はその事を考えながら、別の布袋から木彫りや陶器のコたちを出した。
「ん?こんなのいたかしら?」
一花は基本的に白猫しか買わない。
あの絵に描かれた片方ずつ瞳の色の違う白猫には小さい頃から不思議ものを感じていたせいで、自分で買うのは白猫と決めている。
「黒いのなんて貰った覚えが……」
陶器の黒猫を見て、そのひんやりした感触に一花の背筋に嫌なものが走った。
「嘘よ、なんで……」
頭では今すぐ彼の所へ行った方がいいってわかっているのに、逸る気持ちに手が止まらない。
一花は震える手で五つの黒猫を並べ終えた。
「これ……これって……」
立ちあがって、並べた猫たちを見る。
間違いない事実に、一歩下がった。
身体がじわじわと恐怖に覆われていく
後ずさりながら、懸命にこの事実を受け止めようとするけれど、完全に許容範囲を越えていた。
蓮さんはどこ?
トンっと背中が扉にぶつかる。
「嘘……ダメよ…こんなの……嫌よ!!」
五つの黒猫の瞳が光った気がして一花は完全にパニックに陥った。
「イヤッ、…来ないで!やめて!!」
思いきり扉を押して、転がるように廊下へ飛びした。