猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「それで?」

書斎に入ると、蓮は前触れもなく言った。

「マネージャーの経歴に怪しい所は見当たりませんでしたが、気になる点はあるので調査は続行します」

「そうか……三条のお嬢様は?」

ディークスは眺めていたレーシングカーのミニチュアコレクションから顔をあげた。

「そちらは少しばかり問題が。
 あなたのモデルには直接関係ないですが」

蓮は瞳を眇てディークスを見た。

「大河内家に乗り込んだようです」

「なに?!」

「ますますお忙しくなりますね」

「ほざけ」

バタンッ!と扉が開く大きな音が二階から聞こえて、蓮とディークスはハッと顔を見合わせた。

「やめて!!」

彼女の悲鳴に二人は弾かれたように部屋を飛び出した。

「こんなの嘘よ……」

「一花?どうした?」

階段の最上段に怯えてふらつく足取りの彼女を見た途端に、蓮の心臓が恐怖に凍りついた。

あと一歩、彼女が後ろを見ずに下がったら……

「そこを動くんじゃない!」

彼女を見据えながら、落ちてきたら一緒に転げ落ちる覚悟で蓮は階段を上がっていく。

「猫が……なんで……いつ……」

一花には蓮の声が届いていないようだ。

どこからか二階に上がってきたディークスは、無言で蓮に合図を送った。

いざとなれば姿を現して彼女を助けると。
蓮はディークスに頷いた。

「一花、いい子だから、そこにいるんだ」

「どうしているの?……イヤよ、イヤッ!」

足元を見ていない一花が踏み出した一歩が空を切った。

「一花!!」

蓮は全速力で階段を駆け上がり、落ちそうになる寸前で彼女を受け止めた。

「大丈夫だ、もう大丈夫」

震える身体を力いっぱい抱き締めて、彼女にというより自分に言い聞かせる。

もしかしたら、震えているのは自分の方かも知れない。

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