猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆

「猫がいるの……」

彼女の背後に現れたディークスが首を振って部屋には何もないと言っている。

「部屋には何もいない」

「嘘よ!!いるの!!」

バッと腕から離れた彼女は激しくかぶりを振った。
その瞳はまだパニック状態だ。

「一花、俺を見るんだ!」

大きな声にハッとして一花は彼を見た。

「蓮さん……」

「心配ない、もう大丈夫だから」

「猫がいるの」

一花は取り憑かれたように何度も同じ言葉を繰り返すから、蓮は説得を諦めて優しく『わかった』と頷いた。

「一緒に確認するから……さあ、おいで」

腕を広げると素直に彼女が胸に飛び込んできたので、
心の底からホッとする。

「外から猫が入ってきたのか?」

首を振る彼女を抱き上げた。

一花はその首にしがみつく。

「大丈夫だ、こうしているから」

そこまで怖がる一花に蓮は胸騒ぎがする。

扉が開け放たれた部屋の前で中を覗くと、やはり何かがいた気配は感じられない。

扉の裏でディークスは待機している。

「ほら、何もいないぞ?」

このままベッドへ連れていき一緒に寝ようかと考えていると、か細い声が聞こえてきた。

「あれ……」

一花はそれを見ずに指差した。

「ん?」

カウチの前のローテーブルに、コレクションの猫が並べられている。

「さっき持ち帰ってきたコレクションか。猫ってあれのことか?」

蓮が猫を確認しようと彼女を下ろすと、一花はさっきより激しく首を振ってしがみついてきた。

「私のじゃない」

「は?」

「黒猫は全部私のじゃないの!」

一花はヒステリックに叫ぶと恐怖から涙が滝のように溢れだした。

「なに?!」

「あれは……」

震える声で短く息を吐きながら、一花は彼を見上げて途切れ途切れに言った。

「黒と対の…白いのは……全部海外や…スタジオ…以外の場所で…撮影した時に……買ったもの……」


ストーカーは本当にずっと側にいた。

こんなに前からずっと、ずっと

私を見ていたんだ。

「一花!!」

一花は遠のいていく意識の中で、楽しかった思い出が黒くなっていくのを感じていた。


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