レース越しの抱擁



「いつだってそう!キラは何でもお金で解決しようとする!」

「イヴもそうだろ。」

「う…っ。そ、それは美を保つためと、身嗜みのためよ。」



キラは金遣いの荒さをイヴだけには非難されたくなった。


頻繁にエステに行き、毎週サロン通い。ショッピングが趣味のイヴはブランド物に目が無い。衝動買いはイヴの十八番。当然の如く、支払いは全てキラ持ち。後に来る請求額を見て彼は溜め息を吐くのだ。


それはイヴとて認めているのか、口籠る。



「でもキラは変わったわ。」

「変わった?俺が?」

「ええ。前までは、どんなに忙しくても私を優先してくれていたのに今は違う。時間を、物で埋める。」

「……」

「キラがくれるものだもの。嬉しくない筈ないわ。だけど、今日くらい、一緒に過ごしたかった…っ」



現在の時刻は22時41分。


今日はイヴの誕生日祝いをする筈だったが、急遽仕事が入り会社に行かなくてはならなくなった。


そのため、誕生日を祝えなかった詫びとしてその分プレゼントを大量に買ったのだが――――これか。とキラは気付く。


これが駄目なんだと漸く気付いた。約束を守れなかったことを物を渡すことで帳消しにする。それをイヴは怒っているのだ。

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