レース越しの抱擁
「バックなんて要らない。ドレスも要らない。イヤリングも要らない。高価な物なんて、要らないわ。ただ、キラとの時間が欲しい。」
ケーキやチキン。そしてワイン。テーブルには、パーティーに相応しい料理の数々が並べられていた。レースに包まるイヴの声を聞きながらテーブルを見遣るキラは、自分の過ちに気付く。
このパーティームードは全てイヴが用意した物。イヴは独り、自分の帰りを待ってくれていたことを知る。なのに“今日の時間”をプレゼントで埋めようとした自分が、キラは情けなくなった。“時間”は時間で埋めれば良かったのに。
ポーカーフェイスを崩したキラは窓際に近寄る。
「イヴ、」
「今日、誕生日なのよ。」
キラが何かを言う前に、イヴが呟いた。カーテンの裾はヒラヒラと揺れている。それをイヴが小刻みに震えているからだった。
「やっと、25。」
「…ああ。」
「キラはサンタさんじゃないんだからプレゼントして“はい終わり”なんて考えないでよ。」
「……」
「私はただ、一緒にお祝いして欲しかった…っ!」
年に一度の誕生日。そしてクリスマス。行事が二つも重なるイヴにとってこの日は、特別な一日。それを愛しい彼と過ごしたいと思うのは当然のこと。
イヴだって分かっていた。キラが代表取締役と言う座に就き、多忙な日々を送ってる事を。だから、急遽仕事が入ったキラを笑顔で見送った。
だけど、許せなかった。キラが“時間”をプレゼントで埋めようとすることに。ご機嫌取りのように高価な品ばかりを目の前に並べるキラが、イヴは許せなかったのだ。