君の笑顔
死んだはずの凛君が目の前にいる。
それはとても奇妙なことなのに…私は気にもとめずにただ嬉しかった。
「凛君にまた会えた。もう会えないかと思ってた…」
「寂しい思いさせてごめんな。」
そう言って私の頭を優しく撫でる。
男子の中では大きくないけど私よりは大きくてとても安心する優しい手。
「これからどーしよっかなー」
凛君が独り言のように呟く。
「両親のところに行かないの?」
「いやぁ…俺、幽霊じゃん?だから見えないのなら会わなくてもいいんじゃないかなーって思って」
「凛君のことは見えなくても凛君は両親のこと見えるでしょ。会いたいって思わないの?」
「あんまり………男子はそーゆーもんなのさ」
少しカッコつけて言う。
「あれ?なんで私は凛君のこと見えてるんだろ?」
「そりゃあ紗綾だからだろ!」
「は?」
凛君は子供っとぽい。
だから時々、子供の理屈で物事を決めることが多い。
今みたいに。でも嫌いじゃない。むしろ好きだ。
「紗綾は明日なんかすることあんの?」
「することっていうか、学校があるから」
「あ、そっか。…ん?まてよ………俺は死んだから学校行かなくていいじゃん!サボれる!よっしゃー!!」
一人で考えて一人ではしゃいでいる。
凛君と私は同じ市内の高校に通っている2年生だ。
クラスは一年の時は離れていたが、2年では奇跡的に同じになったのだ。
「よかったですねー」
「うん!って何その棒読み」
「私が学校の間、凛君はどうするの?」
「え?あー…紗綾についてく!」
「結局いくんじゃん」
二人で笑いあって凛君が死んだなんて嘘みたい。
一階からお母さんの「ご飯よ」って声が聞こえた。
「はーい」って答えて一階に降りていく。
もちろん凛君もついてくる。
本当に他の人には見えないのかドキドキしたけど本当に見えないんだなって思った。
私の座っているイスの後ろで凛君が喋っているのに何もないかのようにご飯を食べている親。
「紗綾その卵焼きちょうだい!」
「はいはい。あげるからちょっと落ち着いて」
「え?」
「ん?」
親が目を点にしてこっちを見ている。
あ、そういえば凛君に返事した私は親から見るといきなり独り言を言い出した変な人に見えるんだ。
「はーやーくー」
凛君が口を開けてじれったそうにする。
「えっと…なんでもない!自分の部屋で食べるね」
そう言ってまだ残っているご飯を自分の部屋に持っていく。
部屋の扉を閉めて息を深くはく。
「危なかったー」
「卵焼き!」
「どーぞお食べください」
私の声と同時に卵焼きを頬張る。
「うまー!やべぇめっちゃうまい」
そういって次々とご飯が減っていく。
これからどうすればいいんだろう……。
とりあえず明日、学校で私以外に凛君が見える人がいないか確かめよう。


こうして、私の不思議な物語が始まったのだった──────────。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop