いとしのトナカイくん
「イテッ!」



そんな声とともに、突然手首の拘束が外れて。

あたしはハッとして、きつく瞑っていたまぶたを開いた。

そして、うつむいていたあたしの目に、飛び込んできたのは──。



「……ツノ?」



アスファルトの上に落ちているそれは、なんだか見覚えのある角で。

それがどこで見たものなのか思いつく前に、傍らの男たちが「うわっ」と声をあげた。



「なっなんだよアレ!」

「こえぇ!!」



男たちが注目する方向を追って、ゆるゆると顔をあげていく。

その、視線の先にいたのは──。



「トナカイ……?」



数メートル先に立っていたのは、つい先ほど自販機に行ったはずの、トナカイだった。

なぜか角が片方しかなく、それになんだか、異様なオーラをただよわせていて。


しかも異様なのは、それだけじゃない。『トナカイ』なのは、その頭だけ。

なぜかその体は、バイト先のカラオケ店の制服である──黒いスラックスに白いワイシャツ、革靴に黒い蝶ネクタイ、さらにはさっきあたしが貸した赤いマフラーという出で立ちで。

『どこいったトナカイボディー!?』、なーんて考えるよりも先に、トナカイはジリジリと、こちらに近付いてきた。
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