いとしのトナカイくん
「ちょっ、来んな!! わかったから、来んな!!」

「ホラ、手、放したから、な!! な!?」



完全にビビっているふたり組は慌てたようにそう言うと、あたしを解放してそそくさと逃げて行った。

残されたあたしは、ポカーンと間抜けにもトナカイ(頭部だけ)から目を離せずにいて。

ゆっくりとこちらに近付いてくるトナカイを、ただただ黙って見つめていた。



「……トナカイ?」

「………」



いつの間にかあたしは、地面にへたり込んでしまっていたらしい。

トナカイが伸ばしてきた手のひらに、無意識にもそっと自分の右手を重ねると、思ったよりも強い力で引き上げられた。

その、重ねた手に。なんだか無性に、感動してしまう。


……うわ。人間の手、だ。

長くてゴツゴツしてる、男の人の、手。



「………」



やっぱりトナカイは、何も言わない。

だけどもつながった手が、とてもあたたかくて。

なんだかすごく、胸の中がほっこりして。
< 15 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop