いとしのトナカイくん
「もしかして、動きにくいから、脱いであそこに置いてきたの?」



こくり。肯定の動作を見て、また笑いが込み上げる。


結構、距離あるのに。

こんな、寒いのに。

あたしのために、慌てて脱いで、来てくれたの?



「あはは。馬鹿だなー、トナカイ」

「………」



笑いながらのその言葉に、トナカイがなんだかムッとしたのが雰囲気でわかった。

それにまた、あたしは笑って。

そのまま屈んで、足下の物に手を伸ばす。



「あーあ。着ぐるみの角って、抜けるようになってるんだね」

「………」

「ほら、つけたげるから。ちょっと屈んでー」



取れてしまった角を持ちながら、あたしは彼の頭に触れようとする。

けど、その手が、届く前に。



「……あーもう、ダメだ」



どこからか、くぐもった声が降ってきて。

その声の主に思い当たる前に、あたしの体は、何かあたたかいものに包まれていた。
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