いとしのトナカイくん
で、その相棒が、これですか……。

あたしは再度、自分の1メートル左隣りに立つ“それ”を、ちらりと見る。



「………」



短めの毛。

茶色い体。

どこを見てるのかわからない大きな瞳。

にょっきり生えたふたつの角。


今日のこの日にお誂え向きなそれは、トナカイの着ぐるみを着た誰かで。

無言で立つそのトナカイは、どこか気だるそうな様子で、うちのカラオケ店の名前が入った看板を持っていた。



「(ていうか、この中の人誰よ……)」



寒さに耐えるため両手で自分の二の腕をさすりながら、あたしはそのトナカイに気付かれないように、じっとりした視線を向ける。

トナカイはあたしが着替えて外に出たときにはすでに店の前に立っていたので、その中の人物の素顔は確認していない。

しかも顔を合わせてから早20分、このトナカイはひとことも、ただのひとっことも!言葉を発していないのだ。

……まあ、やたらでかいその身長から、男であることは間違いなさそうだけど……その年齢も見た目も、まったく想像がつかない。


そして横にいるのがトナカイとくれば、今のあたしの格好は、クリスマスイブの夜、煙突から入って良い子にプレゼントを配ってまわる、あのサンタクロースで。

しかもなんと、ただのサンタクロースじゃない。世の男性が大喜びして崇める、ミニスカサンタなのだ。(どーん)
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