いとしのトナカイくん
『ト』

『ナ』

『カ』

『イ』


……………。



「……って、そんなん見りゃわかるっつーのーっ!!」



うがーっと両手を折り曲げてわなわな震わせるあたしに、前を通りかかった人たちがビクッと体を震わせる。

あたしはサッと顔に営業スマイルを貼りつけて、「あ、カラオケわいわいですよろしくどーぞー」とさわやかにティッシュを配った。



「………」



ちらり、再び看板を掲げ始めたトナカイに、視線を寄越す。

……まあ、特に害(?)はなさそうだし。宣伝の間は、仕方ないから耐えるか。


と、そこでふとあたしは、あることに気付く。

棒立ちしているトナカイの目の前に、小学生くらいの男の子がふたり、こちらを見上げながら立ち止まっていたのだ。



「すっげー!! トナカイ!!」

「でっけー!! かっけー!!」



なんだかキラキラした目で、興奮したようにそう言っているキッズ。

えーっと、親はどうしたと思いつつ視線を巡らせると、すこし離れたところで、女性ふたりが和気あいあいと談笑しているのが見えた。

……あながち、ママ友がバッタリ会って話が長引いて、飽きたキッズがうろちょろしてるってところだろう。
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