いとしのトナカイくん
「はーあ……」



なんだか急に情けなくなってきて、あたしはガードレールに腰掛けながら深いため息を吐いた。

微動だにせず、トナカイはその場に立ち続けている。



「………」

「何よぉ、こんな日にこんな格好でバイトなんかしてて、さみしい奴だなって思ってんでしょ。……どーせあたしは、恋人もクリスマスを一緒に過ごす相手もいない、さみしい奴ですよー」



まあこれはそっくりそのまま、このトナカイの中の人にも当てはまることではあるけれど。

うらめしげにトナカイを見上げながら言ったその言葉は、ほとんど八つ当たりみたいなものだ。

そうしてうつむいて茶色いブーツのつま先を見つめていた、あたしの頭に。

ぽん、とやさしく、大きくてあたたかい、何かが置かれた。



「え……っ」

「………」



驚いてパッと顔をあげると、そこには、あたしを見下ろすトナカイの姿。

ぽん、ぽんと、まるでなだめるようにやさしく、彼の大きな手が頭を撫でる。

帽子越しに感じるそれは、とても、心地よくて。



「……なぐさめて、くれてんの?」

「………」



やっぱり、トナカイは何も言わないけれど。

その大きな目が、さっきまでよりも、どこかあたたかく思えて。

自然と、あたしの顔に笑みが浮かぶ。
< 9 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop